旧同タイトル
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文字数: 456
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夢老い人
もちろん、結婚し、子供をもうけ、孫の面倒を見て、自分が築いた家族に看取られながら他界する。平凡だが暖かな生活に憧れない訳ではなかった。
しかし、私は夢への障害になる邪念として、その暖かな憧れを振り払ってきた。夢に全精力を注ぎ、夢に私の人生を賭けたのだ。
今、私は病床に伏し、私と言う幕を閉じようとしている。きっと誰にも看取られる訳ではなく、寂しい幕引きになるはずだ。
夢破れ、家族もなく、何もない。
「無駄に人生を送ったのか?」
結果論だが、夢よりも、自分の幸せために生きたほうが良かったのかもしれない。私は生き方が下手だったのかも知れない。
一生は一度きり、悔やんでも過去に戻りやり直すことは出来ない。
しかし、私は思うのだ。所詮は一人の人間として産まれ、しばらく生きて、死ぬだけのこと。
ただそれだけのことであり、大したことではない。騒ぐ程のものではない。
翌朝、この老人は息を引き取った。
その死に顔に一点の曇りもなかったと言う。
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