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魔女の弟子入り 中

私は、魔法使いに拾われた。 * * * 「それは駄目だリヒター。アクが強すぎる。薬草はもう少し色の明るいものを選ぶといい。」 「セージ様、アクは魔法でとれないの?」 「魔法もそこまで万能では無いさ。それに、使い過ぎは良くない。」 私はリヒター。魔女狩りの騎士に追われて、一度死にかけた魔女。私は、魔法使いに拾われた。 セージ様は、私を拾ってくれた魔法の師匠。この村で医者をしている。村人は魔法使いを受け入れ、共存する珍しい人達だ。 拾われて早5年。村の人達とも顔馴染みになり、セージ様との距離も近づいたように思える。 私はこの村が好きだ。初めて人に受け入れられて、大切にされて。 「どうしたんだい?リヒター。」 「あ、あの、セージ様。私、この村にいられて幸せです。」 「そうか、それは良かった。私も、この村の者達も、その言葉を聞けて嬉しいよ。」 セージ様は優しく私の頭をなでた。 「さて、そろそろ昼食にしようか。」 「わーい!私、作ります!」 魔法の勉強で何度か魔法を使ったせいか、すでにお腹はペコペコだった。 * * * 「うん、おいしい。また腕を上げたね、リヒター。」 「フフーン。お料理は大好きですからね。いつも練習してます。」 本当は、お料理が好きだというわけではなかった。私はただ、セージ様に褒められたい一心で頑張っていた。 「君はすごいね。たしかこの料理の作り方も、この前一度見せただけだろう?」 「フフーン♪すごいでしょう?」 一緒に食事する間は師弟というより、親子のようだと感じた。この時間が、一番好きだ。 しかし、今日は少し様子がおかしかった。 「……セージ様、どうしたんですか?」 「うん?ああ。すまないね。少し考え事をしていただけだ。」 一瞬だけ、セージ様の目の焦点が合っていないように見えた。 普段はとても真っ直ぐとした瞳で、常に何かを見据えたような、芯の強い目をしている。私にはどうしても、その一瞬が気になった。 私が心配そうな目を向けているのを見ていたセージ様は、少し躊躇した後、口を開いた。 「……リヒター。君には必要なことはある程度教えたつもりだ。」 「……セージ様?」 「リヒター。君は強く、そして優しい子だ。そして感性の鋭い、賢い子だ。」 「セージ様、どうしたんですか?何かあったんですか?」 「リヒター。君には特別な力がある。魔法は万能ではない。だが君なら万能に限りなく近づける。」 「あの、セージ様?」 「リヒター。君には大切な出会いが待っている。君ならすぐにわかるはずだ。間違えることはない。」 いきなり意味深なことばかりセージ様が言い始めたのが、私は怖かった。 何か起こる。嫌なことが起こる。そう直感した。 「……リヒター。君は聖なる光だ。師匠として誇らしく思う。 リヒター、君なら絶対にできる。」 セージ様がそう言い切った瞬間、遠くの方で大きな音がした。 「セージ様!あの音ってもしかして……」 「ああ、災害だ。行くぞリヒター。」 火山が、噴火した。 * * * 不幸なことに、火砕流などは私たちを受け入れてくれていた人里に流れ込んだ。悲鳴が聞こえる。聞き慣れた声の悲鳴、それを聞くだけで心が張り裂けそうだった。 「せ、セージ様!みんなが!」 「……………。」 セージ様は黙ってその場に膝をついた。そして祈りの姿勢をとる。 「セージ様?もしかして、魔法で助けられるんですか?」 「……私には、不可能だ。だから君に託す。」 「えっ?」 魔法の光が、私を包んだ。

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