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サンタが与えたもの - 第四夜 -

 栗栖の死体がある場所は運がいいことに、枡野が入院しているところで、急いで集中治療室に向かった。  集中治療室の扉が開かれ、そこから物凄く元気な枡野が出てきた。  枡野に向かって話しかけてみるも、こっちを見ようとしない。ここで改めて自分が死んだことを思い知った。声は通らないし、元気になった枡野の肌も触れられない。  そこに1人の男が近づいて来る。  その男を見た瞬間、栗栖は目を見開く。  その男は、枡野が栗栖よりも前に付き合っていた男だった。  枡野からその男の話はよく聞かされた。なんでも、最初は優しくていい男だと思い付き合い始めたのはいいが、次第に暴力を振るうようになり、それが嫌になって別れたらしい。しかし、別れるとストーカーするようになり、警察にも何度も相談したらしいが、一向に取り合ってくれないと嘆かれ「僕が一生傍にいて、守ってやる」と格好つけたのを憶えていた。  その男がなぜここに。 「愛!大丈夫か?」とその男は枡野を心配する。  枡野はその男を見ると「どちら様ですか?」と訊ねた。 「おい!マジかよ。愛と付き合っていた、黒井三太だよ。忘れたのか?」 「ごめんなさい。何も思い出せないの」枡野は項垂れる。 「騙されちゃいけない」そう栗栖が叫んでも、枡野は愚か、主治医やナースにすら届かない。 「そっかあ。物凄く酷い交通事故だったからな。ゆっくりと時間をかけて思い出して行こう」  枡野はこくりと頷いた。  ベッドは個室の病室に入って行く。  栗栖も一緒に入ろうとすると、爺さんに止められた。 「なあ、あの男に見覚えあるのか?」 「ああ。僕の前に愛が付き合っていた男。でも、暴力を振るうから別れたら、そのあとストーカーになったらしい。なんでそんなことを訊くんだ?」  爺さんは、少し黙ったあと重たい口を開いた。 「君を殺したの、あの男だから・・・」 「やっぱり」怒りはそれほど沸いてこなかった。それよりも、折角目を覚ました彼女の傍にいてやれない自分に憤りを感じた。 「なあサンタ」 「なんじゃ?」 「なんで僕の前に現れたんだ?」 「気まぐれじゃな。本来なら、儂らの姿は、結婚した夫婦にしか見えん。まあ、教会で声が枯れるまで泣きながら、お願いしている君が、どうも哀れに思ってな。俗に言う”例外”というやつじゃ」 「じゃあ、サンタなら、なんでも願い叶えてくれるんだよな」 「儂らに不可能はない」 「なら、僕を生き返らせてくれないか?」 「それは、無理な頼みじゃな」 「そっかあ」落胆した。 「先ほども言ったが、儂らサンタクロースには不可能はない。よって、君を生き返らせるのことは訳もない。しかし、サンタクロースがクリスマスの日に与えられるプレゼントは、1人に1つと決まっておる。それは絶対に破ってはいけない、掟みたいなもんじゃ」 「じゃあ、どうすれば」 「来年のクリスマスまで待つしかないの」 「来年かあ……」さらに落胆した。  2ヶ月しか付き合っていなかったが、その2ヶ月の間、誰よりも枡野愛を愛していたのは、栗栖聖也、つまり自分自身であると自負していた。  しかし、枡野が今最高の笑顔を見せているのは、栗栖ではなく、黒井三太であった。 黒井三太は、翌週、妻と離婚し、枡野愛と結婚する準備を始め、拘置所にいる親友である中井俊樹に面会しに行った。 3人にとっては一生忘れられない、2017年12月25日の出来事であった。 完 (つづく、、、かも)

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