日常 | 文字数: 582 | コメント: 0

夢老い人

夢を見ていた。永い永い夢を。 足がかゆくて目が覚めた。 けれども掻くことができず、何故かゆいのかそればかり考える。 白い天井。視界にはそれしかない。帰らなくちゃ、どこへ?とにかく帰らなくちゃ。 身体を起こそうとしても力が入らない。 「おばあちゃん」 白い天井の端っこから、ぬっと顔が現れた。 焦点が合わない。 ぼやけてしまって、声だけじゃ誰だかわからない。 「だれだい?」 「わたしだよ、あかりだよ」 「あかりちゃん」 はて、わしに孫はいたかの。 もうなんにもわからない。 「おばあちゃん、覚えてる?」 「覚えてるよ、あかりちゃん」 ごめんよ。覚えてない。けれどなんだか、懐かしい。 ゆっくりとしか喋られない。おそらく孫であろうこの娘の顔もわからない。 「嬉しい。おばあちゃんは、いま何を考えていたの?」 「足がかゆい。どうしてかゆいんじゃろ」 「ふふ」 それから娘は濡れたタオルを絞って脚を拭いてくれた。 冷たかったが、痒みはなくなった。 ありがとう、ええと、誰だっけ、名前は………。 「おばあちゃん、また来るね。おやすみ」 「おやすみ」 今もまだ永い永い夢の途中。なんだか良い夢だった気がする。しあわせだ。

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