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夢老い人



夢を見ていた。永い永い夢を。

足がかゆくて目が覚めた。
けれども掻くことができず、何故かゆいのかそればかり考える。
白い天井。視界にはそれしかない。帰らなくちゃ、どこへ?とにかく帰らなくちゃ。
身体を起こそうとしても力が入らない。

「おばあちゃん」

白い天井の端っこから、ぬっと顔が現れた。
焦点が合わない。 ぼやけてしまって、声だけじゃ誰だかわからない。


「だれだい?」

「わたしだよ、あかりだよ」

「あかりちゃん」

はて、わしに孫はいたかの。

もうなんにもわからない。

「おばあちゃん、覚えてる?」

「覚えてるよ、あかりちゃん」

ごめんよ。覚えてない。けれどなんだか、懐かしい。
ゆっくりとしか喋られない。おそらく孫であろうこの娘の顔もわからない。

「嬉しい。おばあちゃんは、いま何を考えていたの?」

「足がかゆい。どうしてかゆいんじゃろ」

「ふふ」

それから娘は濡れたタオルを絞って脚を拭いてくれた。
冷たかったが、痒みはなくなった。
ありがとう、ええと、誰だっけ、名前は………。

「おばあちゃん、また来るね。おやすみ」

「おやすみ」



今もまだ永い永い夢の途中。なんだか良い夢だった気がする。しあわせだ。





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