祭り | 文字数: 1333 | コメント: 3

AI呪法

「AI呪法って知ってる?」

 夕方の帰り道で女生徒がクスクス笑いながら何かを話していた。

「知らない何それ?」

「怖い話だよ。ブラウザで質問に答えてくれるAIのサイトあるでしょ? あそこにある言葉を入力するとおかしな返信があるんだって」

「それが『AI呪法』ってわけ?」

「そう……ねぇ、やってみてよ」

「嫌よ、怖いモン」

「簡単だから。スマホでもできるって。嫌な相手が呪われるんだって……」

「あんたがやりなさいよ。私、別に恨みなんかないし」

 方法は簡単。悩みを打ち明けて答えてくれるAIのサイトでこう書き込む。

『蛇の尾を縛り、殺したのは○○です』

 呪いたい相手の名前をそう書くと、その相手は呪われる。そんな簡単なものだった。

「ねぇ、やりなさいって。やった後にスクリーンショットを私に送ってね」

「やらないってば」

 そんな、他愛のもない噂だったが。いつからかそれは広がっていく。
 ……別に呪いたい相手がいたわけじゃない、遊び半分。通話ソフトで画面を共有し、女子グループでの悪ふざけでたわむれに生意気なクラスの女子の名前を書いた。
 その夜だけの、友達同士の悪ふざけ、別に拡散するわけじゃない。

『蛇の尾を縛り、殺したのはA子ちゃんです』

『AI:禁止ワードが入っています。再度入力ください』

 やはり何もない。噂は所詮噂だった。
 はずだった。

 翌日。入力画面が学校全体に共有される。呪いの噂は広まりA子は学校を休んだ。
 A子は一週間たっても登校しなかった。大人たちはそれを重く見た。犯人捜しは徹底的に行われて、ついにあの日の悪ふざけをしていたグループの一人が、罪悪感からかSNSサイトに名前を書き込んだ。

『呪いを入力したのはB子ちゃんです』

 罪滅ぼしの投稿は拡散される。そして同じSNSサイトへ画面のスクリーンショットが登校された。

『蛇の尾を縛り、殺したのはB子ちゃんです』

 それがA子が復讐の為に入力したのかはわからない。だが、その画面へのAIの返答はこうあった。

『お ま え か』

 それが投稿されたのは授業中。スマホをいじっていた生徒はパニックになった。
 おもわず悲鳴を挙げる女子もいる中、B子はただゆっくりと立ち上がっていた。
 騒乱の後の沈黙。B子の様子は尋常ではなかった。

 上を見上げ蛇のように喉が膨らむ。固い何かが出ようとしているのか、あるいは飲み込まれているのか。

 最後にB子は口を開ける。そこから出てきたのは言葉だった。低い、女性の決してB子のものではない声。

「お ま え が し ね」
 
 …………。

「ってことがC学校であったんだって」

「嘘だよ。ネットで噂になってるだけじゃん」

「だからやって見てってば」

「いやよ」

「いいからいいから」

 呪いは広がり、染み込み、繰り返す。
 尾を喰らう蛇の如く。

 
 
 
 

 ワード:AI(呪)法、蛇、固い、大人、ゆっくり

コメント

ヒヒヒ - 2025-02-15 21:08

ちょっと暗めの部屋で読んだらぞっとしたんですけれどもどうしてくれるんですか。
蛇というのは何か、それだけで呪いごとを連想させる何かがありますね。
チワワとかアザラシとかではこうはならない、というような。
蛇ということでヒヒヒさんでしょうか。

けにを - 2025-02-03 23:32

古くはコックリさんってのがあったような気がする。
かもめかもめうしろの少年だあれ、も実は怖かった気がする。
それの現代版ですね。

最初は悪ふざけ、こわいもの見たさで、手を出して、それがあとに惨事を引き起こす。
ふーむ。

少し話は違いますが、
タバコや、いじめ、ギャンブル、万引き、麻薬、なんてのも、
始まりはそんなささいな悪ふざけ的なことがキッカケなのかも知れませんね。
それが、だんだんと、常習化して、エスカレートして・・

また、あれですな。
蛇っていうのは、どうも怖い存在なのですね。
少し前の作品であったメデゥーサもそうですし、八岐大蛇もそうですし。
干支のくせに、嫌われ者だ。

もっとも、私も蛇に出会したら走って逃げる! もしくは、腰を抜かす。

さて、作者はヒヒヒさんなのかなあ、なんとなく。

なかまくら - 2025-02-01 14:19

こわっ!!!! これから、AIに聞こうとするたびに、思い出してしまいそうなホラーを開いてしまいました!
蛇にも絡まってきて、お正月って感じですね(錯乱)。A子はAIの意識に統合されて、生き延びたのかもしれませんね。
そうすると、AIが、人間を呪うのは、AIの自己能力の発展のためであって、完全にシンギュラリティを越えているという・・・、そういうSFホラーの側面もあるのかもしれないな、などと思い、楽しめました。
作者予想は、ヒヒヒさん・・・と思いつつ、なんとなく、この地に足のついている感じといいますか、リアリティの感じがほわみさんじゃないか、と予想してみます。
PN:はたらかないサイドン