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最後の音 上

音が聞こえた。   その音は、上品な音ではない。粗末な木の机の音だった。しかしその音はリズムよく弾くかれ耳に気持ちよく響く。   ヴィルム・ホーゼンフェルトは、使い古されたベッドに寝ていた。   ヴィルムは自分の右手を上げ見た。細きった右手。その後に粗末な囚人服の袖が続いてた。その右手を見て自分のに手に苦笑した。   まだ音が聞こえる。それは自分の為に向けられてるのかわからない。ただ、自分の耳の中だけに響いている。   それは、幻聴だと分かっていた。自分は、精神に異常をきたしている。   ゆっくりと右手を下ろす。今は、それがやっとだった。   過酷な労働で、何度も脳卒中になり倒れた。それでも働かされ、やがて体が動けなくなった。   戦争が終わりソ連の捕虜になった。不当な裁判で戦争犯罪人となり25年の労働刑が言い渡され、収容所で入れられた。   その結果が、ヴィルムがこの戦争で行った行為の代償なのかわからない。   ドイツ軍人として祖国の為に戦った。それを誇りに持っていた。   戦争が始まる頃は、自分はナチスの思想に酔っていた。それが安酒の酔いと分かったのは戦争始まってからだ。   1941年にポーランドのワルシャワにスポーツ施設の責任者になり、ワルシャワでのナチス親衛隊の行動を見て、一気に酔いが醒めた。  執拗なユダヤ狩り・無慈悲なポーランド人の対応  なぜ、そこまでやる?  同じドイツ軍人として怒りが来た。しかし、それは無意味な怒りと分かった。 彼らも自分と同じ、ナチスの思想で動いている。それが分かり自分の酔いが醒めた。   偶然にナチス親衛隊の追われてるポーランド人を施設に匿った。   それからだろうか?   ワルシャワの人から交流が生まれポーランド語などを教えてもらったりした。  25年の労働刑がもし値するなら、それはナチスに酔っていた自分がいたという罪だろう。  天井を見る。天井もベッド同様に薄汚れたレンガが無機質にあった。 「シュピルマン」   ヴィルムは呟いた。同時に、耳から音が止まった。 「あの曲を弾いてくれ」    自分が何を言ってるのか分からなかった。しかし、あの曲が聞きたかった。  一瞬の沈黙の後に小さい音が鳴った。  そうだ。あの曲だ。自分が無理に弾かせた。しかしお前は怯えながらも机をピアノに見立てて弾いた。  天井が変わった。あの部屋が見えてきた。 ワルシャワ蜂起の時にあの部屋でシュピルマンと会った。  

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