R〜旅団結成〜
畑がある。そこにはとても大きなミルク麦畑があり、その隣にはとても赤い夏葡萄の畑がある。他にも白い野菜や赤い果物など様々な畑がある。このシエイティ村は農業の盛んな村である。その畑の南にある草原の真ん中に俺たち2人は向かい合い立っていた。俺たちは一ヶ月程前にキャローイン学園を卒業した。キャローイン学園とは武学園のことだ。この世界ではモンスターなどが存在していたり、未開の地が多く存在する。そのモンスターの討伐や未開の地探索を仕事とする人たちがいる。それは旅団と呼ばれる所に所属する人達のことである。その旅団に俺たちは入るために武術を学べるこの武学園に入った。魔法を習う魔学園などもあるんだが、この村にはないため武学園を選んだのだ。その武学園や魔学園は武術、魔法に関する構え、技の型、などを習うところである。キャローイン学園の構えは相手に体を向けて立ち、左手を胸の辺りまで上げて右手を腰の位置から後ろに引く、左足を前に出しつま先を相手に向け、右足は後ろに引きつま先を右に向けて構える。この構えは相手の攻撃を左手で防ぎつつ隙をついて予備動作なしの右パンチを打つことができる。蹴り技も出しやすい。ナインに聞いたのだが他の村や町の武学院でもこれと似たような構えが多く存在するらしい。そして、今 目の前にいる橙色の髪の少年は俺と同じキャローイン学園に通っていて共に競い合ったライバルであると同時に大切な友でもある。これから二人で組手を行う。今から行う組手は学園生活最後の勝負である。入学当時俺たちはどっちが卒業までに組手の勝利数が多いかを競おうということになり現在に至る。現在までの組手数はおよそ1000回弱だ。俺は369勝。こいつも369勝。引き分け262回。この組手で長年の決着がつく。 「ついにこれで決着が着くんだな、、」 寂しく思う気持ちをナインに悟られないように呟く。 「長いようで短かったね」 橙色の髪の少年はおれの気持ちを悟ったのだろうか。いつものようにニコッと笑みを浮かべながら言った。 「あの頃はほんとバカな事したよなー」 表情を隠すように横を向きながら言う。 「それは君だろ、、」 橙色の髪の少年が指摘する。 「どうだったかなぁ〜」 ハハハと二人一緒に笑う。いつも通りの二人の雰囲気に戻ってきた。 (本当はもっとこうして組手をしたり、勉強したりしたかったなぁ、、、でもこれが最後、、悔いは残したくない‼︎) 「それじゃあ始めますか!」 橙色の髪の少年が頷く。 風が吹き少年達の髪を揺らす、と同時に橙色の髪の少年が地面を蹴り右拳を打ち込む。その拳は読んでいたので左手で軽く受け止める。 「くっ」 と橙色の髪の少年が声を漏らす。 俺はニヤリと笑う。受け止めた手と逆の手で胴めがけて打ち込む。 「ぐはっ、、」 橙色の髪の少年が軽く中に吹き飛ばされる。咳き込みながらも立ち上がりまだまだとばかりに笑みを浮かべる。 「降参してもいいんだぞ ナイン」 俺はナインが本気を出していないのが分かっていた。いつもならこんな簡単に倒されるようなヤワじゃないからだ。 「そんなわけないだろ 君こそ痛い目見ないうちに降参したらどうだい?リト」 ニヤリとナインが言い放ち、その目からは覚悟が伝わってきた。ナインは地面を踏み込む。右拳を打ち込む、、と思いきや左回し蹴りを放つ。俺は一瞬の判断ができずナインの脚が俺の胸を蹴り上げる。 「かはっ、、、!」 背中から勢いよく地面に打ち付けられる。 (やっぱそうこなくっちゃな、、、!) 俺はジンジンと痛む胸を手で抑えながら立ち上がり構えを取る。右拳を下げ、左拳を胸辺りに上げる。左脚を前に右脚を後ろに引く。学園で習う型は上半身を相手に向けるのが基本だけどこの構えは上半身が横斜めにする。そして右の拳は腰の位置から後ろに引いて構えるのだが俺は右拳を後ろに引かずにそのまま腰の位置で固定している。この構えは俺の我流だ。俺の構えは守りではなく避けることを考えた構えで上半身を捻りながら右拳を打ち込むことで体重の乗った重いパンチを打てる。さらに左手で素早く拳を複数回繰り出せる。この構えを考えたのは格上との戦いを考慮した際、守るよりも避けて素早く攻撃に転じた方が力の差などを覆せると考えたからである。そしてこの構えを俺が考えたのはあの日彼女との組手での因縁が深く関わっている、、、。 「本気で行くぞ!ナイン」 「来い リト!」 ビュンとナインの右脚が風を切る。俺はその脚をガードすると見せかけて受け流しナインの死角に入る。ナインの脇腹を左拳で打つ。ドン、ドン、ドン… 「ぐふっ、、!」 ナインはまともに食らったせいで体勢を崩し倒れる。が、勢いよく跳ね起き右拳を俺に放ってきた。俺は左腕で受け止め右拳を打ち出す。その瞬間ナインが体を大きく回転させながら左肘で俺の左腕を打つ。想像以上の衝撃がに軽くグラついてしまう。そして構えがほんの一瞬だけ崩れてしまった。その隙をナインが見逃すわけもなく勢いよく前に出たナインが右拳を胸に打ち、左拳を顎に打つ。 「ぐはぁ、、!」 俺はたまらず後ろに倒れてしまう。ハアハアと息を荒げながらも立ち上がる。 「くっ、、なかなかやるじゃねぇか」 余裕があるよう見せるため軽く笑みを浮かべてみせる。 「まだまだだよリト!」 こちらも同様笑みを浮かべている。 俺は地面を思いっきり踏み込み左拳を打つ。 カーンカーンカーンカーンカーン。鐘の音が鳴った。 「なっ これは!」 「「鐘の音!!!」」 二人同時に言葉に出していた。 「この鐘が鳴るってことはなにか村に危険が迫ってるってことだよな?」 「うん。だけど、ただごとじゃないよ」ナインは焦りの表情を見せる。 「まさかだと思うけど、モンスターが接近してるかも、、、」 「本当か⁉︎」 俺はヒヤリと背中に汗が流れたのを感じた。 「確証は持てないんだけど、あそこ」 指差し、その方角を見る。そこにはいつもと変わらぬ景色があった。ただひとつ違うと言えば鳥の様子だ。いつも見ているから分かる。こんな、こんなにも鳥が散らばりながら飛んできているのは初めて見た。その方向からどんどんこちらへ飛んでくる。まるで何かから逃げるように、、、。 「行ってみよう、、」 ナインがつぶやく。俺はうなづいて返す。 俺たちはその方角へと走り出す。少し走っていると麦畑が見えた。そこにはゆっくりとであるが確かに前進している黒い影があった。 「あれは、まさか」 ナインの呼吸が荒くなる。 「ジャイアント!、、」 二人は苦い表情になる。 ジャイアントとは中型のモンスターである。普通は旅団の人達が3人程度で立ち向かえば倒せてしまうモンスターなのだが、まだ学園を卒業したばかりの俺たちでは倒すのはまず不可能で足止めすらできないはずだ。 「あれはまだ僕たちの手には負えないよ!リト」 ナインが叫けぶ。 「そんなことわかってる。だけどあの方角はマズイ」 その黒い影はあと1キロ程で民家へたどり着いてしまう。民家へとたどり着いてしまえば農家の人たちが危険にさらされてしまう。それだけはさせない。村の人々はなんとしてでも守る。俺たちは黒い影へと駆ける。民家まであと数百メートルというところでジャイアントの前に立つ。 「ハァハァ、、、、なんとか間に合ったねリト!」 「ああ、、、だがここからが本題だ 、、、。あと少しすれば鐘の音を聞いた旅団の人達が来るはずだ!それまで持ちこたえるぞ!よし!俺が囮になるからナインは奴の後方に回って仕掛けてくれ!」 俺は構えを取る。軽く息を整え、その隙にナインは左からジャイアントの後ろへと回りこむ。 「はあー!」 俺は気合いとともに踏み出した。ジャイアントはブンと音を立てながら右手を上げ振り下ろした。 (は、速い!?) ドン、ドサッ。俺は地面に強く打ち付けられてしまう。強い!、、、 「ガハッ、、、」 「リトーー!!」 俺は地面に転がったまま起き上がれない。するとナインが俺の元へ駆け寄ってきた。 それを見過ごすわけもなくジャイアントが右足でナインを蹴り飛ばした。 「くっ、、、が、、」 後方へと蹴り飛ばされてしまった。このままだと死、、、そう思いかけたと同時に俺の周りに青い光が、空のような青い。暖かい光が俺を包み込む。 「カハッ、、カハッ、、こんな、ところで、、終われない、、、!!」 不思議と力が湧いてきた。ゆっくりと立ち上がる。立ち上がった俺の体は青く輝いている。やはり幻覚ではない!それを見ていたジャイアントはもう一度俺めがけて右手を振り下ろしてきた。ドカンと衝撃が起こり土煙が舞う。土煙が止む。だがそこに俺の姿はない。 俺は土煙に紛れてジャイアントの後方へと一瞬で移動していた、いや、できていたのだ。身体能力が上がっている今なら倒せるかもしれない。 「うおおおおー!」 青い輝きが右拳一点に集中する。 俺は右拳を大きく振りかぶりジャイアントの背中めがけて放つ。 瞬間青い輝きが大きくなりジャイアントを吹き飛ばす。 「やった、、のか、、?」 だが、ジャイアントは起き上がる。ダメージは大きいらしくフラついている。だが、俺にはもう立ち上がる力すらない。 「く、そ!、、、もう、、力が入らない、、」 虚しくも俺は体を地面に倒してしまう。絶対絶名と思ったその時。大剣を持った大柄な男とシルクのように滑らかなローブに身を包んだ小柄な女が現れた。 「よくここまでジャイアントにダメージを与えたな 小僧!」 男は力強く、それでいて優しい声で俺たちを称賛した。 「もう大丈夫。あとは私達がなんとかする。」 そう言い放つと二人はジャイアントへ視線を向ける。 男が大剣をジャイアントへと振り回す。大剣はブュンと風を切り巨体を打ち付け吹き飛ばす。 「フレイムトルネード!」 転がったジャイアントに向けて女が魔法を繰り出す。炎の竜巻はジャイアントを焼き付ける。数秒程でジャイアントは息絶える。 「よし!やったか」 ふうと息を吐く。 男はそれからポーチの中のビンを二つ取り出し俺とナインに渡してきた。 「それを飲みな その程度のキズなら治るぜ」 ニカッと笑う。助かりますと感謝を言いつつビンを開け中身を全て飲み干す。すると徐々に二人のキズが癒えて体が動くようになった。 「あの、ひとついいですか?」 ナインが問う。 「お二人は旅団の方ですか?」 「ああ そうだが 。実はな ついさっきこの村に着いたんだよ」 「リトの青い光見ましたか?」 「いや、見てないが、、それはもしかすると固有能力かもしれないな」 「悪いが俺たちは野暮用があるんでな、それにこの件の報告をしなければならないからもう行くことにするよ。青髪の小僧のことはギルドでみてもらうといい。何か分かるかもしれんからな。それに固有能力だとしたら初めての発動でジャイアントを瀕死状態まで追い込むとはとてつもなく大きな力だな。」 男が立ち上がり言った。 「青い光。大きな力。まさか、あの一族の?、、、いえ ありえないわね。聞かなかったことにしてちょうだい。」 女が言う。 「なにはともあれ、ありがとうございました!」 俺は女の人の言葉が少し気になったが今はお礼を言うべく立ち上がり頭を下げた。男はおう!と返し 女はぺこりと頭を下げて足早に村の方へと去って行った。
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