日常 | 文字数: 903 | コメント: 0

あ け ぼ の

ダッダッダッダッダ・・・
廊下をけたたましく走る音が聞こえる。
(そうか、あいつが帰ってきたのか・・・)
私こと、赤坂道寺は向かい合っていたパソコンをスリープモードにすると、席を立った。
隣の女性に向かって一礼をする。
その女性は微笑みながら、私にこう告げた。
「良かったですね。」
私も頬を緩めるとニヤリと表情をもって返信をした。
さぁいこうと、踵を返してキビキビ歩こうとした時だった。
周りを見渡すと、皆が私に向かって微笑みの眼差しを向けている。
その光景に胸を打たれながらも浅く一礼だけすませて、ドアを開けて廊下へ出た。
私は音とは反対の方向に体を向けると、光がやさしくともった右手を天井に向かって大きく掲げた。
ダッダッダッダッダ・・・
ダッダッダ・・・
ダッ
・・・
私の背中を前に音がピシャリとやんだ。
「せんせ、先生・・・ただいま。」
私はゆっくり踵を返すと、彼女を確認して丁寧な口調でこう告げた。
「おかえり。よく頑張ったな。お疲れ。」
長い間せき止められていたであろう、彼女の中に潜んでいるダムが私の言葉をきっかけに崩壊した瞬間だった。
彼女はただ静かに刻々と泣いた。
私は、そんな彼女を抱きつくほどの気概を持ち合わせてはいないので頭を愛らしく撫でてやることしかできなかった。
私は次第に、あふれてくる感動を涙という心と現実の架け橋を利用してこの世に感動を具現化させていた。
二人で泣きあっていると、彼女がパチリと目を開けて撫でていた私の手を取りグイっと彼女の手前に引かれた。
私のバランスが崩れて前のめりになると彼女は私にキスをした。
私が慌てて、何かを言おうとすると彼女は私の口を手でふさぎ耳元でこう囁いた。
「キスは、恋焦がれる感情、純粋な衝動を相手に届けることができる架け橋になりえるんじゃない?」
僕は、彼女が何を言ってるか聞き取れないほど慌てていたので彼女からサッと距離をとると彼女にこういった。
「まぁ、いい。じゃあ行こうか。」
「うん。」
二人は手を取り合って、明日の方向に歩き出した。





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