恋愛 | 文字数: 1138 | コメント: 0

夏衣(なつごろも)

 毎日お互いの仕事に追われている僕らふたり。ふたりともサービス業で働いているので、固定した休日の無いシフト勤務。なかなか思うようにふたりの休日を合わせられないけれど、明日はやっと一緒に取れた休日。本当に久しぶりのデートだ。
「じゃあ明日の朝ね!丸一日一緒っていつ以来かしら?遅刻しないでよ〜!」
「うん、久しぶりに一緒の休みが取れたんだもんな。青空の下で思いっきりパーっと、遊ぼうぜ!」
7月も中旬に入って暑さも本番。海に出掛ける事でふたりの意見は一致した。
「 俺、車出すからさあ、ちょっと遠くの海にしようか。どこか行きたい所ある?」
「ううん、私、車じゃなくって電車がいいな。二人で電車に乗って出かけたいの。車の運転も結構疲れるでしょ?ねえ、久しぶりに江ノ島に行こうよ!」
 そう言えば、何年か前に一度江ノ島にふたりで行った事があるけれど、あの時は確か秋だった。江ノ電に乗りたいって言う君を連れ出したんだっけ。

待ち合わせの駅で落ち合うと、マリンブルーのTシャツを着た君は笑顔で駆け寄ってきて、僕に腕を絡ませてきた。触れた君の腕のぬくもりで、半袖を着る季節になってから一度も会っていなかった事に僕は気がついた。

 カラフルなパラソル、スイカ模様のビーチボール、女の子達の嬌声、子供の笑い声。ビーチは夏を待ちわびていた人たちで賑わっている。僕らも水着に着替え、サマーベッドを借りて横たわり、オイルを肌に塗る。久しぶりに見る君の水着姿が目にまぶしい。
「あー、オイルの香りが夏って感じ!ビーチに来たって感じだよね!」
ふたりは久しぶりのデートで子供のようにはしゃぎ、あっという間に夕方になってしまった。

「海に入って泳いだり、ボートに乗ったり、ビール飲みながら焼きそば食べたり、ああ今日は久しぶりに楽しかったなー!やっぱり、海に来てよかったね!」君は日焼けした顔を僕に向けて微笑んだ。

陽も傾き始め、人影がまばらになった夕方のビーチ。宴のあとの様な、なんとも言えない虚しさを感じるのは僕だけだろうか。
「今度はいつ来られるかなぁ......」
夕日に染まり始めてきた海を見つめて、少し寂しそうにつぶやく君。その横顔を見ていたら、僕は君の小さな肩を抱き寄せずにはいられなかった......

 帰りの江ノ電では僕の肩に頭を預けてすぐに寝入ってしまった君。遊び疲れた子供の様なその寝顔を見ていたら、電車で来ようと言った君の気持ちが僕にも少し解った気がする。

 君の顔と同じくらいの色に日焼けした僕の腕。シャツの袖が触れて、少しだけヒリリと感じた。  fin



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