ファンタジー | 文字数: 2816 | コメント: 5

燃骨怪獣、現る。

#博士による証言

 それに答えるためには、まず、その人物との関係性というものを知っておく必要がある。それは、大切な人・・・例えば恋人のような、あるいは家族のような。いいや、そういうものではないのだ。宿命・・・とも違うし、腐れ縁・・・でもない。そうだな・・・、同じ運命に立ち向かう、使命があると気付いてしまった間柄、とでも言っておこうか。それは、苦しい運命であり、これまで鍛え上げてきた才能を、最大限発揮しても、この運命の行く末は、想像が及ばない。だが、それゆえに、震えるのだ。これまで、何を見ても、何をやっても、こんな感情は、生まれなかった。全身全霊をかけてぶつかっていける、その対象に。
そのうえで、考えなければならない。可能かどうか、ということになる。敵は燃える怪獣である。理科室に飾られた標本骨格のようなその骸(むくろ)が炎を纏う。差乍(さなが)ら、がしゃどくろといったところである。この怪獣は、燃骨怪獣と呼称されることになった。
さて。対する人類は、巨人の力でもって、これに対処してきた。しかし、これはこれ。それはそれだ。それに答えるための、人物というのは、他でもない当代の巨人・安堂のことだ。巨人は世襲制で、彼の父も、巨人だった。エネルギーを使い果たし、今は、永い眠りについている。巨人の血は代を重ねるごとに、薄まり、ついには、一人の力では変化できなくなった。彼は、祖先の力が封じ込められたコインを組み合わせ、変化し、戦う術を身につけた。もちろん、そこに登場するのが、私である。形而上学的な観念である巨人という存在に人の科学を当てはめた。だが、次々と現れる敵はいよいよ強大になっていく。だが、巨人は・・・安堂は、立ち向かうのだ。立ち向かうことをやめないのだ。力が及ばないかもしれない。二度と癒えぬ傷を負うかもしれない。父のように、永い眠りにつくかもしれない。だが、彼は、彼に向けられた期待や、彼に託された希望に答えようとするのだ。彼は、あまりにも不器用な、・・・そういう男なのだ。ならば、私ができることは、2つある。ひとつは、彼の強化である。血が薄いならば、輸血してやればいい。あらかじめ採血してあった彼の血を濃縮し、血清として打ち込んでやれば、巨人の血が濃くなり、力は増すだろう。無茶なドーピングは、命を削るだろう。だが、彼の願いは叶えることができる。ふたつめは、彼のに託された希望を奪い去ることである。巨人としての彼の力が必要ない世界を作り出すことができたら・・・人類だけでも、怪獣を打ち倒すことができたなら・・・。そして、私は開発した。その土偶人形は、その文様を電気回路として、肉体を動かす広義のロボットだ。そのロボットは、自衛隊を一蹴した燃骨怪獣を倒すことに成功したのだ。


*巨人による証言

 私が聞いたのは、燃骨怪獣を博士が操ったロボットが倒したということだ。私は安堵した。私は動揺した。そのふたつの感情は、奇妙なことに同時に私に訪れた。人間社会に訪れた、この度の脅威は去った。だが、これでよいのであれば、最早、巨人は必要ないということになる。それは、私は人間社会に受け入れられるだろうか、という不安でもあった。役に立つから必要とされているという、不安定さに改めて気が付いたといえる。人類は摘みにくるだろう・・・巨人という、最後に残された不安の種を。だが、私は、気が付いてしまった。自衛隊を、私は攻撃しなければならないということに。燃骨怪獣が倒されたと聞いた、1週間後の夜のことだった。微睡(まどろ)む私の意識の中に、奴は現れた。奴は、言う。私は不滅なのだと。対峙する相手の可能性を燃やすことで、生きながらえ続けてきたのだという。それは、生命存在そのものへの冒涜的な行為だと私が責めると、やつは鼻で笑った。英霊となった先祖の力を消費しながら、戦うお前に言われる筋合いはない、と。鼻で笑うやつを、私は今度こそ滅ぼし、目を覚ました。


*とあるキャスターによる報道

 私は、ひとりのキャスターとして、起こった出来事を正しく、報道したい。まず、初めにスタジオに飛び込んできたニュースは、自衛隊による巨人攻撃を検討する、というニュースだった。そして、間もなく、攻撃は始まってしまった。怪獣に効果があった攻撃も、巨人には効果が薄いように見えた。それどころか、自衛隊は巨人による反撃を受けたのだ。「やはり、巨人は人類の味方ではなかったのだ」と、スタジオのスタッフ達が囁き合う声を聴きながら、私は、何を伝えればよいのか、分からなくなってしまった。私は、真実を伝えることを職業として、生きてきたつもりだった。だが、どうだろう。人類が反撃を受けるのは、当然のことではないか。散々、巨人の庇護のもとで、生き永らえ、文明を発展させてきた人類が、感謝するどころか、後ろ脚で泥をかけてきたのだ。報道席から、私は追い出され、政府のエージェントを名乗る、目を見張るような美人が、巨人の攻撃による悲惨な被害状況を国民に訴えている。用意されたコメンテーターが、用意された原稿を読み上げていく。そこに、真実はなかった。私は、その目で見たことを報道することにした。人の波をかき分けて、東京タワーの展望デッキへとたどり着く。戦いは続いていた。タイマーの点滅する巨人と、並び立つ人類が生み出した土偶人形が、自衛隊と対峙していた。私の心は竦み上がった。人類こそが、怪獣なのではないか。この声は、この報道は、おどろおどろしい怪獣の鳴き声とは違うが、狡猾な怪獣のそれなのではないか、と、そう思った。そのとき、自衛隊の布陣する一帯が、突如として燃え上がった。そして、その瓦礫が一所(ひとところ)に集まると、先日、土偶人形が倒したはずの燃骨怪獣が再び蘇ったのだった。そこにすかさず、攻撃を繰り出す巨人と土偶人形。その攻撃を受けて、明らかによろめく燃骨怪獣。私の脳裏にある、可能性が浮かんだ。燃骨怪獣に倒されたものは、怨霊となり、燃骨怪獣の再臨のための生贄になるのではないか。そして、それに気が付いた、巨人は一度、燃骨怪獣に敗北した自衛隊の一団を、攻撃したのではないか。私はその可能性を想像した。そして、それは現実のものとなった。私は、国民の皆さんに伝えたい。我々は、巨人に気を遣いながら生きていかなければならないのだ。それは、決して、恐怖などといった理由からではない。人類の超兵器、土偶人形の登場によって、巨人は考えなければならなかったはずだ、己の在り様を。気を遣われる側から、気を遣う側にならねばならない、そういうことも考えただろう。だが、巨人の英知に対して、人類はまだ遠く及ばない。気を遣われる側になるには遠く及ばないのだ。その力だけではなく、覚悟という意味合いでも、だ。以上が、キャスターである私からのレポートでした。

コメント

なかまくら - 2025-03-24 06:46

>ヒヒヒさん
感想ありがとうございます。遅くなってしまってすみません。
勇者と怪獣を隔てているものって、認知みたいなものかなって思っていて、
人間って、一度、嫌いと思ったら、その一挙手一投足が嫌い、みたいなのってあると思うのですが、
一度、怖いと思ったら、その一挙手一投足が怖いってなりそうだなって思うんですよね。
果たして、それを再び、元の関係に戻せるのか、それとも、必要だからしょうがない、でやっていくのか・・・。
ただ、八方美人な感じは人間を相手にする以上、結局は無理で、勇者にも政治的な駆け引きが求められるのかもしれない、
なんて思ったりします。

ヒヒヒ - 2025-03-18 20:57

短編小説をつなぎ合わせて戯曲にする。面白いアイデアですね!
登場人物の証言で物語が浮かび上がってくると言うのも面白いです。
平和な世界に勇者の存在は危険すぎる。
でも、勇者がいなければ平和は実現できない。このジレンマ。
いつか、勇者と人類が並び立つ日は来るんでしょうか?

なかまくら - 2025-03-15 07:42

>けにおさん
感想ありがとうございます。怪獣と巨人の戦いが終局にたどり着くと、時計の針は逆に回りだすのかもしれません。ぼくは、ウルトラマンは小学校の頃、再放送をぼんやりと見ていた記憶があります! あの頃とは異なる視点で特撮ものが見られるような気がしますね。
甦り続ける敵、そろそろラスボス間近、って感じです!
でも、その行為によって、守ってきた人類と客観的に見ると、対立しなければならなくなる。そういう展開にしてみました。
でも、最後はハッピーエンドがいいなあと思っています。どうしようかな・・・。

けにを - 2025-03-10 06:19

怪獣もの良いですねー

私はいい歳なので、幼少期、ウルトラマンをよく観ていて、怪獣には思い入れがあります。
バルタン星人だとか、レッドキングだとか、読んでて思い出して懐かしかったですね。

さて本作、甦る怪獣はさながらフェニックスのような感じなのかな?

巨人は、怪獣が甦る事がないように、自衛隊を懲らしめていたって事ですか。

ミイラ取りがミイラになって、人間を攻撃する側に立ったのかな?

確かに、巨人が重宝されるのは、怪獣と戦ってくれるからで、悪であるはずの怪獣が居なくなれば、巨人の存在意義が薄れてしまいますねー。

悪がいるから、正義のウルトラマンが輝く訳で、敵となる怪獣が居なくなれば、ウルトラマンもイマイチ活躍できないし、存在意義すら疑われるだろうから。

何だか、転落人生ぽくて、悲しいね。

また、目線を変えて、怪獣や巨人の視点から人間を見ると、地球を独占し、地球上の生物の頂点に立ち、我が物顔で振る舞う人間は横柄で、許し難い悪の存在なのかも知れませんねー。他の生物からすると、人間こそ怪獣、怪人に見えてるのかも?ね。

楽しい作品でした!

なかまくら - 2025-03-09 15:32

単体でも作品になるように書いていますが、短編小説をオムニバス的に書いて、世界観を固めて、それをつなぎ合わせて戯曲を書き上げようという実験的なプロジェクトを昨年からやっています。自分の中でも、だんだん世界観やメッセージが固まってきている感じがしています。