クワガタのトッピングはじめました。
ビロードの道を歩くと、薄硝子の翅に光を受けて虹を作るトンボの群れがゴーグル越しに見えた。
あれが今日の獲物だ。水晶でできた蜘蛛の糸で作られた網を持つ。
翅の粒子を吸わないようにマスクの留め金をキツク締める。
僕の親父はウスバカゲロウの翅を吸い込んで、肺をズタズタに切り裂かれ血を吹き出して死んだ。
トンボの翅は綺麗だから高く売れるだろう。合皮でできた手袋で水晶蜘蛛の網を強く握る。
パッと網を投げる。トンボ達がパッと飛び散る。いくつかの翅が砕けキラキラとガラスの粒子が振りそそぐ。
光が反射して虹が散乱する。水晶の網は目に見えないような細かな切れ込みがありそれが獲物の表皮を切り裂き食い込む。
ひぃふぅみぃ……七匹のトンボが取れた。慎重にトンボを網から剥がして方にさげた箱に入れる。
とりあえず明日の晩飯までは食いつなげるだろう。
町の入り口で、蒸気を全身に受けて見えない粒子を落とされる。三重の扉をくぐり居住区の片隅へ。
マスクとゴーグルを外す、この瞬間が一番好きだ。
質屋へ行き今日の戦果を金に換える。
銅貨が数枚とエレベーターの往復券が一枚。
それを握りしめてエレベーターに乗り、中層の繁華街へ。
今日の狩りで網が破れたので予備を買う、後はエールと傷薬、なにか足りないものあったっけ?
特に思い当たらなかったのでホタルが数匹は言ったカンテラとハエの目玉を購入した。
その足で本屋へ行き相場表を買った。前買った相場表は古く、そのせいで高く売れると思った蟻の酸が安く買いたたかれた。
本を見るとクワガタが高騰しているらしい。
上層の方々は髪飾りにクワガタの翅と顎を加工したものを使うのだとか、
クワガタの狩りは危険だがその表に書かれている価格を考えると対価は十分だった。
クワガタ用の虫ピンを数本買う、ピンと言いつつ実際槍みたいなものだが。この槍の先に毒を塗り関節の隙間に刺すそれがクワガタの狩り方だ。
手痛い出費のせいで食料は携帯食料しか買えなかった。肉が食べたかったがしかたない。この固い粘土のような飯にも慣れたものだ。
下層民にとってのおふくろの味ではないだろうか?
エレベーターで下に降りて穴倉へ帰る。明日はクワガタ狩りだ。
夜のうちにおきて準備をする。出入口は混むからな。
防護服を着てゴーグルとマスクをつける。さぁ行こうか。
三重の扉を超えて虫の世界へゆく。
クワガタはオパールの倒木によくいる。人より少し大きいくらいが狩り頃だ。小さいクワガタは金にならない。
知る限りオパールの樹が生えている場所までは大体二日ほどかかる。つまり行き帰りの移動だけで四日、狩りの時間を入れるなら大体七日程度は見る必要がある。
食料はともかく水はもたないだろう。オパールの樹の中に水があればよいのだが。
途中運良くダンゴムシを見つけた。外殻は鉄板の代わりになるし、中身は結構旨い。
そこいらに生えている金属の杭をさして運ぶ、ビロードの道はツルツル滑るので運ぶのは意外と楽だ。
オパールの林についた。一本一本がビルのようにでかい。
とりあえず狩りの拠点を作る必要があった。体はこれまでの移動で限界だったしマスクのフィルターを変えなければならない。
オパールの木々を吟味する。スカスカすぎると虫に襲われるし、かといってぎっしりと中身が詰まっている木は拠点を作れない。
なんとか、ちょうど良い木を見立てることができた。根本から入り、中を見ると少し奥に水があった。オパールの木は水をろ過する。
外で体の粒子をふるい落とすためにハエの目玉をつぶす。ボンッと爆発して爆風で粒子が落とされる。さっさと根本へもどり慎重に服を脱ぐ。
慎重に脱いでも何かの虫の破片で身体傷つくので傷薬を塗る。気休めに過ぎないことはわかっている。
ダンゴムシの肉を焼く、せっかく水があるのでスープも作るか。と言っても飯盒に塩とダンゴムシの肉を入れるだけだが。
肉は柔らかく、どこかクリーミーな感じがして上手かった。スープも結構いけるもんだ、今度香辛料も買おう。
この日はマスクのフィルターを変え、ゴーグルを清掃し、ピンに毒を塗り込みそのまま寝た。明日はクワガタを探さなくては。
翌日、防護服とマスクとゴーグルを装備して虫ピンとカンテラを持ってオパールの林を探索する。
運良くプレシャスオパールの倒木を見つけることができた。コモンオパールの樹よりもクワガタがいる可能性は高い。
赤色や緑色が一歩歩くごとに変化する道を行く。光が反射して空間を満たすので木の中は明るい。一応カンテラを持ってきたが必要はなさそうだ。
クワガタは夜行性なので朝の内に仕留めるのが定石だ。
見つけた。
オパールの外殻をもつクワガタを前方に確認する。
白色ではなく、プレシャスオパールの複雑な輝きを持ったクワガタだった。
ひっそりと近づく、気づかれたら顎に挟まれて死ぬ。
慎重にゆっくり、ゆっくりと歩を進める。狙うのは頭部と胴体の繋ぎ目、ピンを両手で強く握る。
ここで気づかれたら死ぬ、そんな距離を少しづつつめる。
狙いをつけてピンを突き出した。
が弾かれる。寸前で気づかれた。翅が開かれ虹が生み出されるそれがクワガタの威嚇の姿だった。
オパールを伝う光がクワガタの翅に流れ。その赤かったり緑だったりする目が僕を見る。
逃げることはできないだろう。背中に担いでいた二本目のピンを握った。
目の前で顎が開かれる。ここしかなかった。
その口の中心にピンを突き刺す。顎が閉じられる。
両腕の骨が砕けることを覚悟した、その後死ぬことも。
だが、それ以上顎は閉じなかった。最初に外したピンの毒が少しは聞いていたのか、それとも二本目のピンが予想以上に深く刺さったのか。
息をついて、クワガタを解体する。
その夜、ダンゴムシのスープにクワガタがトッピングされた。
泥臭くてまずかった。
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