恋愛 | 文字数: 909 | コメント: 0

フライドポテト

「だから違うって!」 目の前で夏奈がニヤニヤしている。 こうやって私がムキになればなるほど彼女は楽しそうに笑う。悪い顔だ。 「好きなんだよ、栄子。だってさっきから優太の話ばっかりだもん。」 夏奈は紅茶のグラスに口を付けながら言った。 「もう付き合っちゃえばいいのに。」 どうしていつもこうなんだろう。 夏奈は何もわかってない。私が優太の話をするのはアイツがどれだけ馬鹿で、非常識で、最低な男かを説明するためなのに。 今日だって、大好きな先輩の前でわざわざ話しかけてきて。お陰で私は先輩とおしゃべりできる貴重な時間を潰されたのだ。最低!本当にタイミングの悪い男! 「あっ、そういえば今日、バスケ部の1年に告られたみたいだよ、優太。」 夏奈がふと思い出したように言った。 「アイツ意外とモテるもんね。早くしないと取られちゃうかもよ?栄子、後悔しない?」 「別に関係ないし。どうぞお幸せに~って感じ。」 そう言ってフライドポテトを口に放った。熱っ、と思い今度はコーラを一気に啜る。思ったより炭酸が強くて少し涙目になる。 帰り道。夏奈の言葉が蘇る。 「後悔しない?」 優太、バスケ部の子と付き合うのかな。その子のこと、好きなのかな。 もう話しかけてこなくなるかな。 私のこと、好きじゃなくなっちゃうのかな。 夏の日差しが目に染みる。セミが忙しなく鳴いている。 …まだ、間に合うかなぁ 「おーい。何ボーッとしてんの?」 「へっ!?なんで!?なんで優太がいんの!?」 「なんでって、俺も帰りこっちだし」 顔が熱い。緊張して足が震える。 なんか馬鹿みたいだ…優太なんかに。 というか、なんで今いるわけ? あーもう、本当にタイミングの悪い男! 「優太、あのさ」 私はふう、と深く息を吐いた。 風が吹いて、木々が揺らめく。青空には雲一つ見当たらない。緑の葉から零れ落ちる光がキラキラと二人の顔を照らしていた。 夏奈がまた、笑うだろうか。 馬鹿で、非常識で、最低な男。 そんな男と、恋をしてしまった私の話を。

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