日常
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コメント: 10
友情
同級生に音楽やっているのが知られると、だいたいはSNSを聞かれるけど、私はどうにもそういうのが苦手だった。ジャンル的には弾き語りになるんだろうけど、歌は添え物で、ギターの紡ぐ和声こそが私にとっての世界だった。たとえば輪郭のぼやけた空間の心地よいまどろみ。あるいは、その日いちばん落ち着く音の中で、少しずつ和音の響きを変えていくような心地よさ。そうやってゆったりうつろいゆくコードに、歌はちょっとした彩りを添える。
「もったいないよ」
いつも三人で華やいでいるクラスメイトが言った。
「せっかるやるなら、ちゃんとSNSでバズらせなきゃ」
「そういうの得意じゃないから」
「大丈夫、こっちで撮って編集もやっとくからさ。アカウント作らなきゃ損だよ」
そうして彼女らの撮影が始まった。放課後の音楽室は、寒い季節なら、斜めからの夕日が窓から差し込んであかい世界に影がのびるお気に入りだったけど、あいにくの夏場でまだまだ陽は高かった。伸びやかな和音のほうがいいのかなと思ったけど、そういう気分にはあまりなれなかった。
「いいかんじ」「いけるいける」と盛り上がる三人を前に、家からふらっと出かけるような響きの和音を鳴らしているうち、いつの間にか撮影は終わっていた。
「あとで、ちゃんとうける感じに仕上げて送るね」
しばらくして送られてきたのは、変顔を集めた十秒のショート動画だった。
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コメント
あさくら - 2025-09-16 19:18
ヒヒヒさんお久しぶりです。
バス停なんかでも携帯を前に3人で動画撮ってる高校生とか見かけるこのごろです。
間に挟まっている文化や技術が変わっただけで、人はずっとこんなやりとりを続けてきたのかもしれません。
あさくら - 2025-09-16 19:15
テキサス万歳さん、再度のコメントありがとうございます。
先日、山本夜更さんという方をステージでお見掛けして、「私は詩集とかだして朗読っぽい音楽やってますが、届けたいのは言葉じゃなくて音なんです」とおっしゃっていました。
はい、また是非お会いしましょう。
ヒヒヒ - 2025-09-15 22:28
あさくらさん、お久しぶりです。なんだか、「ありそうだな」と思えて笑ってしまいました。
私の周りでも、広場で携帯を前に踊っている子供たちをちらほら見かけるようになりました。
友達とこういうやりとりをする子も、きっといるんでしょうね。
テキサス万歳 - 2025-08-31 21:43
あさくら様。拙コメントへの御コメントありがとうございます。自分。微音音響系弾き語りを提唱したいのですが。言葉メインでしょ。それだと弾き語りやめてアカペラか朗読ですませれば。とされがちなんですよね。そこがなかなかわかってもらえない。つたえたいのは言葉というより音なんですよね。超短編小説でしょ。だったら詩でいいんじゃない。といわれますよね。ちがうんですよね。つたえたいのはロマンチックな詩情ではなく。もっとモダンな何かなんですよね。長々とコメント欄占有してもうしわけありません。また。お会いしましょう。
あさくら - 2025-08-29 23:37
テキサス万歳さん、お初におめにかかります。
ちょうど今日、最寄りの小箱ライブにいっておりまして、スピーカーの真ん前で振動を浴びながら引き算と真逆の音環境につかった矢先でした。余技といえば、音響テストなんかで軽く手慣れたフレーズを合わせる瞬間に、余技らしい魅力が垣間見えます。
テキサス万歳 - 2025-08-17 11:03
弾き語りとは。言葉にメロディーを付加するタシザンではなく。言葉の輪郭をサスフォーなどのコードで曖昧にするヒキザン。声でもう魅力的なヒキザンができている人の弾き語りはギターやピアノさえいらないアカペラでいい。サックス吹きやバンドでのブルースハーピストがソロアルバムとかで余技で弾き語りをする時がまさにこれですよね。
あさくら - 2025-08-11 18:24
けにをさん、お久しぶりでございます。
どうせなら変顔でバズるといいですね(?)
けにを - 2025-08-11 14:44
ガーンだねー
和音どころか、歌声だから、変顔でバズらせようとしたショート動画なんだものね。
主人公の気持ちを踏みにじる行為💦
芸術を解らん連中め❗️
って、でも、でも、変顔の方がバズるのが、この世だろうな
あさくら - 2025-08-07 19:53
なかまくらさん、ご無沙汰しておりました。
まさに、なんかこんな感じの世の中ですけど、今後ともよろしくお願いいたします
なかまくら - 2025-08-04 21:29
もったいない、ということですね。
騒いでいることが楽しいだけで、音楽をやっている人が、音楽をやっている理由に、その瑞々しさに、
何も近づけていなくて、まさに、なんかそんな感じだなって思いました。