日常 | 文字数: 962 | コメント: 0

夏の少女は海が似合う

白いTシャツに夏色に焦げた十七歳の少女の身体はこの町で一番うつくしい。つばの大きな麦わら帽子をかぶって今日も海へ駆けだす。 防波堤の先端は彼女の特等席だった。潮の香りを胸にいっぱい吸い込んで、太陽にきらきら揺れる小さな波をメトロノームにして、少女は好きな流行歌をうたう。 「海岸は、君らのステージだ、まーぶしーくてー……」 「へたくそ」 投げかけた声に驚いた彼女は、目を丸くして振り返った。肩甲骨あたりまで無造作に伸びた黒い髪が揺れる。 「びっくりしたあ、マコじゃん」 「マコって言うな」 「はいはい、マコトくん」 白い八重歯を覗かせて彼女は笑った。焦げ茶の瞳にはあのきらきらした波が映っていた。 「ヒマワリが咲いたんだ」 「どこに」 「俺んち」 腕一本ぶんぐらいの距離を空けて、少女の隣に座った。だいぶ年季の入ったコンクリートの防波堤のはじっこから水面を見つめながらサンダルを履いた足をぶらぶら揺らした。 「ほら。これ」 後ろ手に握りしめていたヒマワリの花を彼女の目の前へ差し出した。少女は小さな両手のひらで花を包むようにして持ち上げた。 「わ、きれい。これ私にくれるの?」 「うん。いいよ」 あげようと思って持ってきたわけではなかったけれど、これは夏色にきらきら光る少女に必要なものだと、思った。 おもむろに彼女は麦わら帽子を脱ぎその膝の上に乗せて、瑞々しいヒマワリの花を麦わらの粗い目に挿した。それをもう一度かぶり、 「ね、どう?」 「どうって、言われても」 少女の麦わら帽子とヒマワリと夏色に焼けた肌に太陽の光が差し込んで、一枚の絵を見ているような、完成した迫力に気圧された。 「……いいと思うよ」 「いいって、なにそれ」 物足りない返事に、彼女はむっと頬を膨らませた。それさえ完成されていてうつくしかった。 「えっへへ、ありがとう」 彼女は自らの瑞々しいうつくしさに酔っていた。真夏に焼けた肌と、海、太陽の光。「少女」という感情を引き立ててくれるものすべてが好きだった。今の君は最高に綺麗だ。陳腐な言葉で触れたら腐り落ちてしまいそうなほどに、夏の少女はうつくしかった。

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