日常 | 文字数: 367 | コメント: 0

奇跡

生きていくのは、どうしようもないぐらい時間の無駄だった。
人と会う。くだらない。
CDを聴く。つまらない。
個展に行く。何も響かない。
仕事? いちばんうんざりする時間だ。

ある日、自分では何も期待してないつもりで、近所のカフェが開催する弾き語りのイベントを見に行った。
エレキベースを抱えて弾き語りをしている青年が出演していた。
いいステージだった。
僕は初めて時間を愛おしいと思えた。
物販でCDを買った。
悲しい歌ばかりが収録されていたが、ベースの響きが柔らかかった。
いいエンジニアリングのCDだったが、録音では物足りないところもあった。
もう一度、生で彼の音を聞きたかった。
しかし、出演情報を告知している彼のSNSが更新されることはなかった。
彼が病没したと知ったのは、五年後のことだった。

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