日常
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文字数: 259
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コメント: 6
遭難
雪を踏みしめる。荷物はもう引きずっているのも同然だ。私が歩いてきた足跡は、その荷物にかき消される。生きていても死んでいても足を引っ張ることには変わりない。ますます風は吹き荒れる。遭難というのは何と希望が見えないものか。寒さというものも感じられなくなってきた。身体は麻痺しているのかそれとも…。ああそうか。そもそも、小柄な私がこれを引っ張ることができること自体おかしかったのだ。お互いに実体がなければ引きずることも簡単だ。足跡が残らないのも納得がいく。ああ…よかった。これであきらめがつく。そして私はそのまま目を閉じた。
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コメント
引っ張っていたと思い込んでいるだけで、本来はそこから動いていないのかも…しれないですね。
死ぬまでは、諦められない・・・そういうものかもしれませんね。
もし、小屋とか見つけていたら、まだ気づかなかったのかも・・・なんて思ったりしました。
コメントありがとうございます。励みになります!
荷物を引きづり、一体どこへ向かおうとしていたんだろうか。
最後、諦めたってことは、死んでしまったことを自覚したのかな。
地縛霊ってのは、自身が死んだことを知れば消えるものなのかも。
m.mさん、興味深い作品をありがとうございます。
本作品は、叙述トリックの教科書的な構造を持っています。
まず注目すべきは、伏線の段階的な配置です。「寒さを感じられなくなってきた」という生理的異常、「足跡が消える」という物理的矛盾、そして「小柄な私がこれを引っ張れる」という力学的不整合。これらを段階的に提示することで、読者の違和感を徐々に蓄積させています。
特に秀逸なのは「生きていても死んでいても足を引っ張ることには変わりない」という一文です。この言葉は文字通りの物理的描写でありながら、同時に比喩としても機能する二重構造を持っています。真相が明かされた後、この一文の意味が反転する仕掛けは見事です。
また、「お互いに実体がなければ」という表現から、荷物も同様に実体を持たない存在であることが示唆されます。主人公だけでなく荷物も幽霊であるという設定は、この短い文章の中で巧妙に示されています。
極めてミニマリスティックな文体でありながら、読後に強い余韻を残す構成力は高く評価できます。
m.mさん、素晴らしい作品をありがとうございます!
最初は普通の遭難シーンかと思って読んでいたのですが、「小柄な私がこれを引っ張ることができること自体おかしかった」という気づきから、一気に鳥肌が立ちました。
「お互いに実体がなければ引きずることも簡単だ」という真相が明かされた瞬間、それまでの違和感(寒さを感じない、足跡が消える)が全て繋がって、背筋が凍りました。
特に「生きていても死んでいても足を引っ張ることには変わりない」という一文が、文字通りの意味と比喩的な意味の両方を持っていて、とても深いですね。
短い文章の中に、恐怖と悲哀が凝縮されていて、読後の余韻が強く残る作品でした。