ノンフィクション | 文字数: 1679 | コメント: 2

ドローンと犬とAI ―科学的熊対策の挑戦―

「今年度の熊による人的被害は、既に過去最悪のペースで推移しています」 会議室のスクリーンに映し出されたグラフを見つめながら、県の野生動物対策室長である私は深いため息をついた。2025年、日本各地で熊の出没が相次ぎ、人里への侵入事例は前年比で30%増加している。従来の罠設置や駆除では追いつかない。何か抜本的な解決策が必要だった。 「室長、上智大学の研究チームから連絡がありました。AI危険マップのプロトタイプが完成したそうです」 部下の報告に、私は目を輝かせた。これだ。科学技術を総動員した、新しい熊対策の時代が始まる。 上智大学のチームが開発したAI危険マップは、過去の熊目撃データと環境要因を機械学習で解析し、19の地域で熊遭遇の高リスクエリアを予測する。精度は85%を超えるという。このマップを基盤に、私は三段階の防御システムを構想した。 第一段階は「予測」だ。AIマップで危険エリアを特定し、住民に事前警告を発する。スマホアプリと連携させれば、登山者やハイカーにリアルタイムで危険情報を届けられる。 第二段階は「抑止」だ。岐阜県で試験運用されているドローンシステムに注目した。このドローンには目玉模様のステッカーが貼られ、メガホンと爆竹発射装置を搭載している。犬の吠え声を大音量で流し、爆竹で威嚇する。熊は視覚的・聴覚的な刺激に敏感で、このドローンの出現により約70%の熊が人里から退避したというデータがある。 しかし、ドローンだけでは不十分だ。そこで第三段階「追跡と誘導」を加える。カレリアン・ベア・ドッグという特殊な犬種を導入するのだ。 カレリアン・ベア・ドッグはフィンランド原産の熊狩猟犬で、軽井沢などで既に運用が始まっている。この犬は熊を攻撃せず、追い立てて森に帰す訓練を受けている。ドローンで熊を発見し、ベア犬で森の奥深くまで誘導する。この二段構えなら、熊を殺さずに人里から遠ざけられる。 そして、住民自身の防衛手段も重要だ。政府が推奨する「空のペットボトル作戦」は、小学生でも実践できる。ペットボトルに小石を入れて振れば、カラカラという音が熊を警戒させる。徳島の企業が開発した唐辛子スプレー「熊一目散」も、いざという時の最終防御線として配布する。 私はこの総合対策案を「スマート熊共存プロジェクト」と名付け、県議会に提案した。予算は通常の駆除対策の1.5倍だったが、AIとドローン、ベア犬を組み合わせた科学的アプローチは議員たちの関心を引いた。 「これは単なる駆除ではなく、人間と熊の共存を目指す試みです」 私のプレゼンテーションは全会一致で承認された。 プロジェクトは翌月から開始された。AIマップで特定した高リスクエリアに電気柵を設置し、ドローンを24時間体制で巡回させた。熊が人里に近づくと、ドローンが自動で出動し、犬の吠え声と爆竹で警告する。同時に、訓練されたベア犬のハンドラーチームが現場に急行する。 最初の遭遇は、プロジェクト開始から3日目だった。AIマップが「今後6時間以内に熊出没の可能性90%」と予測した山間部の集落に、案の定、雌熊と子熊が現れた。 ドローンが即座に反応し、目玉模様を光らせながら爆竹を発射した。熊は驚いて立ち止まったが、逃げる気配はない。そこでベア犬チームが投入された。3頭のカレリアン・ベア・ドッグが吠えながら熊を追い立て、森の奥へと誘導していく。 15分後、熊は人里から2キロ離れた森の中に戻った。負傷者ゼロ。熊も無傷。完璧な成功だった。 その後3ヶ月間で、プロジェクトは計27回の熊遭遇に対処し、全てのケースで人的被害を防いだ。熊の駆除件数は前年比で60%減少し、住民の安全は確保された。 ある日、小学校を訪問した私は、子供たちがペットボトルを振りながら登下校する姿を見た。AIとドローンと犬が守る町で、人々は熊を恐れるのではなく、共存の方法を学んでいた。 科学技術は、人間と自然の新しい関係を築く鍵となる。それが、このプロジェクトから得た最大の教訓だった。

コメント

けにをさん、私の小説を読んでいただきありがとうございます。

まず、「共存」の定義についてですが、現状の行動が完全な共存を実現しているとは主張しておりません。ただし、熊の生存空間を侵害しないような方法としてドローンを使用することは、共存への一歩と捉えています。確かに食物供給の問題は深刻で、それについても描写を加えるべきでした。

また、小説の構成については、その指摘はまったくもって正しいです。現在は事実の羅列に近い形となっており、読者にとっては面白みに欠けるかもしれません。山あり、谷ありのドラマチックな展開を加えることで、より引き込み力のある作品にしていきたいと思います。

今後ともご意見をお待ちしております。

けにを
- 2025-11-24 09:40

うーん。

熊対策で、熊を追い払うって秘策のは素晴らしいし、なるほど対策なんだけど。。
「熊との共存」ってのは、言い過ぎじゃないか? 山に熊を追い払うことが、熊と人間との共存と言えるのか?
なぜ、熊が山から人間界に降りてくるのか? 木の実、どんぐり、などが不作で山に食べるものがないから、食べるものを探しに山から降りてくるわけだろ。
本作では、従来の罠設置や駆除をせずに熊を山に追い払ってるだけのことであり、共存をゴールとするなら、ゴールしてないと思う。
山に追い返された熊は山で餓死しているかもしれないぞ? それが本当に共存なのか。

共存というからには、例えば、山の木の実などが不作であっても熊が食っていけるだけの何かしらを山に用意するとか? そういったことじゃないのか?

また、小説としての読み物としても正直あまり面白くない。
小説ってのは、山あり、谷あり、オチあり、って起承転結がある方が面白い。
本作は、山もなく他にもなくオチもない。3無しだ。
ノンフィクションだから、淡々としたお話で、こんなものかもしれないけど、、、いや、違うな
・・・ノンフィクションでも取り上げるネタは波瀾万丈の話でしょう普通。
こんな浮き沈みの少ない話はノンフィクション小説とも言えないだろう。