ぼくは新年度早々、職員室に、呼び出された! それが、波乱万丈、奇々怪々なぼくのホームルーム再建計画の始まりだった!
始業式と称して体育館に集められた全校生徒一同は、校長先生のアリなのかタイなのかも判別不能なお話をうわの空で聞いていた! うわぁー・・・。
白いモクモクの雲の中に浮かび上がるのは、とある場面・・・それは、そう!
それもそのはず! その後に待ち構えているのは、毎年恒例、担任発表なのだ! そして、ぼくのクラスの担任になったのは、新任の須静川道之介(すしずがわみちのすけ)先生だった!
職員室に呼び出した須静川先生は、ぼくにこう言った。
「学級の委員長になってみないか?」
「い、いい、いいいいいん長ですか? いいいん・・・ですか?」
驚きのあまり、聞き返してしまった言葉が掠れて思わず承諾を求める言葉が発生してしまう! 須静川先生は、にんまりと笑って、手を差し出してくる!
「あっ、いやっ、そのっ!!」
ぼくは由緒正しき、お茶の家元であったために、それは由緒正しいことに、家訓があった! ・・・『茶沢家の漢に二言、あるべからず』! その家訓を破ったものは、家の敷居に額をぶつけて真っ赤な花を咲かすのだ! それはもうすべからく! そうなってしまう! すべからくは、須らくと書くのは、偶然の産物なのだ!
ぼくは静かに今は見えない天の川を仰いだ。空にご先祖様の額が現れて、赤い花のお茶菓子が咲いている! ・・・ような気がした。それはそれはたいそう、いたそうだった!
ぼくは手を差し出して、契約は交わされたのだった!
ぼくの学級には昨年度、問題があった。
ここからは回想だ! 想像してみてほしい・・・舞台の袖幕がワカメのように揺れている様を! そんな感じで聞いてほしい! ・・・そう、昨年度は担任が怪盗で大変だった。産休に入った先生の代わりに来たはずの先生が、いつのことだか思い出してご覧に入れたら怪盗少女に変身していて、七変化を末に、八変化に失敗してしまったのだ! 何が起こったのか、他のクラスメイトには意味が分からなかった! ぼくも思わず立ち尽くした! そこに茶沢一族が颯爽と集結した! 茶沢家に所蔵された秘宝〈時間(とき)を止める茶器〉を狙い、先生と嘘をついてぼくの通う中学校に転校してきたのだったのだったのだ! 茶沢家にその正体を見破られた怪盗少女(七変化・改)先生は、師範であるおばあちゃんの煙管(キセル)に煙草の煙のように巻きとられ消えてしまったのだ・・・。そして、海藻は終わりになった。
・・・偽の先生だったとはいえ、ぼくの学級はその後、落ち着くことはなかった。騒がしいけれど、翼があるわけでもないから、体育祭も学習発表会も散々だったのだ。
少しのクラス替えだけが行われただけで始まることになった今年度が、ぼくの双肩に、などと考えると肩にご先祖様のっけてんのかい!ってぐらい重いような気がした・・・。
須静川先生と一緒に教室に向かう途中の廊下だった!
「玉露くん、一緒に頑張ろっ!」
その瞬間、世界が花の茶菓子色に包まれた! そう、ぼくが思わず委員長になってしまったのも、先生の隣にいた彼女が、去年の途中から気になっていたクラスの女子、有水トトロさんだったのだ! なんなら、ほとんど有水さんのせいだと言っても過言ではない! 額から「花咲か」してるご先祖様なんて、有水さんの前では肩からバルカンが如きっと、如意棒のように飛び出して、何処かへ吹き飛ばしてしまうくらいだった!
それもこれも、ぼくに物心ついた頃から身に付いている特殊な能力のためだった! ぼくには、他人が寿司ネタのようにランク付けされて見えるのだ! 彼女は名前の通り、鮪の大トロなのだ! これはぼくの人生で初めての遭遇で、もはや、運命的なベストマッチで、ともすればパンドラの箱ですら開いてしまうほどの運命的な出会いなのだ!
教室の扉は開け放たれている! 中からは、死んだ魚の目をしたクラスメイト達が、こちらの向こうに拡がる虚海のような、期待のない1年間という大海原を眺めている・・・。なんてこったい! そこに、一迅の風のように須静川先生が登壇する!
「おめぇら! そんなかっぱ巻きみたいな青春でいいのか! ときには稲荷寿司のように甘酸っぱかったりなあ! ウニの軍艦巻きみたいに少しほろ苦かったりなあ! そんな青春を、おれぁ! お前たちに、おくってもらいてえんでい!」
先生の熱弁が、クラスメイトの皮膚を炙り、そのハートをたたき起こす! そんなキャラだったの!? というツッコミが昭和の漫画みたいにあんぐりと開いた喉の奥に張り付いて、飛び出してこなかった! 先生の額にねじり鉢巻きが見えた気がした! 目はハイライトが5割増しに輝いて、クラスメイトの目がほんの少しだけ、水面に反射したように揺らめいた・・・。
それからというもの、ぼくと有水さんは、クラスの再建に奔走した! 先生の全力バックアップもあり、初めはほとんどかっぱ巻きスタートだったクラスメイト達だったけれど! ぼくの親友の圭太郎は、かっぱ巻き⇒スーパー(の)サーモン⇒タスマニアサーモンへと最高級の変化を遂げていき、先日は家の近所で出会った熊にサーモグラフィーアタック(熱を利用した攻撃)をお見舞いし、撃退したとのことだった! 詳細は良く分からなかったが、彼の腹の脂が少し増えたことは分かった! ほかにも有水さんと幼稚園から一緒だという高師(たかもろ)さんも、佐渡一番鰤へと出世していった! こうして、少しずつ仲間を増やしていったぼくたちのクラスのネタは次第に仕上がっていき、体育祭でも文化祭でも、そして合唱コンクールでも、それはもう最盛期を誇る平家の軍記物語を聞いているような、そんな他を圧倒する団結力を発揮したのだ! 11月1日の寿司の日に、国語の先生である須静川先生が、平清盛の孫・平維盛が、寿司職人「弥助」となって生き延びた話は、まるで、昨年、一度死んだ魚のようになった自分たちが蘇ったことが、運命的であるように、感動をしたものだった!
けれども、『祇園精舎の鐘の声』である。秋が過ぎ、冬が来て、今年度ももうすぐ終わりが近づいていた。ぼくは知っていた。ぼくたちは、4月になれば、また一回り大きくならなければならない。この1年をかっぱ巻きでスタートしたぼくたちは、再び、かっぱ巻きであることを思い出さねばならないのだ。
ちなみに、そんなことを言っている、自分のネタをぼくは知らないのだ!
どんなネタになっているだろう、と気になりだしたら止まらなかった! いいや、あるいは、お茶なのかもしれない! 粗茶からスタートしたぼくも、いまでは、名前に負けない玉露にたどり着いているはずだった!
大トロである有水さんに、ふと昇降口で出会ったものだから、思ったときには聞いていた。「そうだなぁ」という彼女は、少し、迷って、
「午後の紅茶かな?」
と冗談めかして、そう言った。けれども! 1年間、ともに頑張ってきたぼくにはわかる! 彼女の綺麗な目の奥でキラリと光る! これは真実を言っている! そうか、それゆえに・・・、つまり、彼女はクラスメイトがお茶に見えている・・・そういうことなのか!?
そんなぼくに、彼女は付け加える。
「でも、茶柱が立ってて、幸運の紅茶って感じがしたの。だから、先生に推薦したの。玉露君となら、素敵な1年が始まるかもって。だから、ね、ありがとう。」
そういう彼女の綺麗な目の奥はキラリと光っていて、なんだかぼくはそれでもいいような気がしていた。
コメント
おおっと。
長編の「学園コメディ」の第1話を見たような、そんな密度の高い1話でした。
「職員室」「担任発表」「お茶の家元」「去年の怪盗少女事件」と、次々と場面と設定が継ぎ足されていくのですが、なんとか置いていかれずに最後まで走り抜けました。
次は、タスマニアサーモンに進化した圭太郎くんのエピソードとか、個別のキャラクターも魅力があり、番外編も見てみたい作品でした。
作者は、これはなかまくらさんでしょうね。