旧同タイトル | イベント: 同タイトル | 2017年8月 | 文字数: 930 | コメント: 0

君が宇宙へ行く頃

今日は流星群が見えるらしい * * * 「そっちからは見えてる?」 ケータイの向こう側から美星の声が聞こえる。 深夜1時を少し過ぎて、街の明かりが1つ、また1つと消えていく。まだ明かりがついているのは俺を含め、まだ社内PCの前で仕事をさせられているガレー船の労働者たちのものだろう。 「こちらからは見えないよ。流星群の時間、ちょっとズレたのかもな。」 「えー…眠いんだから早くして欲しいな。」 「俺に言うなよ。こっちだって早く目の前の仕事を終わらせたいのに。」 最近のイヤホンは便利なもので、マイク機能がついている。いわゆる「ハンズフリー」とやらだそうだ。手は仕事をして、口は恋人との会話。忙しい社会人にはありがたい機能だが、別の意味で忙しくなっている気がする。 「まだお仕事あるの?」 「あるの。」 「でもその様子だと真人以外は帰ってるんでしょ?」 「だからまだあるんだよ。」 「あちゃー……」 他の社員を恨む気は無いが、それで仕事量が増えるのは納得がいかない。 「じゃあやっぱり今日は帰れないの?」 「終電終わってるからな。明日の始発で一旦着替えに帰るよ。」 「えー…そのときは私が…寝てるかも。」 美星があくびを我慢するような話し方になり始める。 「さては酒飲んでるな?」 「うん。飲んでます。」 飲んでいた。 「そのうち眠くなるぞ。流星群見れなくなるんじゃないのか?」 「もう眠いでーす……」 ガタンっ!という音と共に寝息が微かに聞こえる。 「もしもーし、美星?起きてるかー?」 「むにゃ…泳いでる……」 どうやらアルコールが回って眠ってしまったようだった。 そしてタイミング悪く、俺の視界の端を流れ星が通った。 「あちゃー、見逃しそうだな。」 美星はどうやらグッスリと眠っているようで、スヤスヤと呼吸が聞こえる。 「……綺麗だね、ほ……スピー……」 いや、どうやら夢の中ではちゃんと見ているらしい。いや、先程の寝言からすると宇宙で流星群の中を泳いでるようだ。 気持ちよさそうに宇宙を泳いでいるのであれば、邪魔をするまい。 俺は電話をそっと切り、星空観賞を程々に仕事に戻った。

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