君が宇宙へ行く頃
今日は流星群が見えるらしい
* * *
「そっちからは見えてる?」
ケータイの向こう側から美星の声が聞こえる。
深夜1時を少し過ぎて、街の明かりが1つ、また1つと消えていく。まだ明かりがついているのは俺を含め、まだ社内PCの前で仕事をさせられているガレー船の労働者たちのものだろう。
「こちらからは見えないよ。流星群の時間、ちょっとズレたのかもな。」
「えー…眠いんだから早くして欲しいな。」
「俺に言うなよ。こっちだって早く目の前の仕事を終わらせたいのに。」
最近のイヤホンは便利なもので、マイク機能がついている。いわゆる「ハンズフリー」とやらだそうだ。手は仕事をして、口は恋人との会話。忙しい社会人にはありがたい機能だが、別の意味で忙しくなっている気がする。
「まだお仕事あるの?」
「あるの。」
「でもその様子だと真人以外は帰ってるんでしょ?」
「だからまだあるんだよ。」
「あちゃー……」
他の社員を恨む気は無いが、それで仕事量が増えるのは納得がいかない。
「じゃあやっぱり今日は帰れないの?」
「終電終わってるからな。明日の始発で一旦着替えに帰るよ。」
「えー…そのときは私が…寝てるかも。」
美星があくびを我慢するような話し方になり始める。
「さては酒飲んでるな?」
「うん。飲んでます。」
飲んでいた。
「そのうち眠くなるぞ。流星群見れなくなるんじゃないのか?」
「もう眠いでーす……」
ガタンっ!という音と共に寝息が微かに聞こえる。
「もしもーし、美星?起きてるかー?」
「むにゃ…泳いでる……」
どうやらアルコールが回って眠ってしまったようだった。
そしてタイミング悪く、俺の視界の端を流れ星が通った。
「あちゃー、見逃しそうだな。」
美星はどうやらグッスリと眠っているようで、スヤスヤと呼吸が聞こえる。
「……綺麗だね、ほ……スピー……」
いや、どうやら夢の中ではちゃんと見ているらしい。いや、先程の寝言からすると宇宙で流星群の中を泳いでるようだ。
気持ちよさそうに宇宙を泳いでいるのであれば、邪魔をするまい。
俺は電話をそっと切り、星空観賞を程々に仕事に戻った。
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