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10月はカットします

 2020年10月13日、神奈川県町田市の片隅、人気のない雑居ビルの会議室で、日本政府の組織図にない部署の長が言う。

「一応警告しておこう。辞退するならいまのうちだが」

「いえ、すでに覚悟はしております」

 彼女は答えた。戸籍上の名前は、この部屋に入る前に捨てていた。

「よろしい。君の任務は、俗に『未来改変』と呼ばれるものだ」

「未来改変? 過去改変ではなく?」

「過去を変えれば現在が変わる。と、一般にはそう信じられているが、事実はそうではない。実際は逆なのだ」

「……任務のために、物理学の履修が必要でしょうか?」

「それには及ばない。ただ、我々の世界が『改変後』であることを覚えておいてほしい」

「改変されてしまった現在を元に戻すこと、そのために未来に行くこと。それが任務ですか」

「そう、そして、とあるメッセージを消去してきてほしい」

 先に言っておこう、と長は前置きする。

「なぜこんなものを、と君は思うだろう。これは、竜巻が北京を襲うのを阻止するためにニューヨークの蝶を殺しに行く、そういうお話だ」



超短編小説会:日本の小説投稿サイト。“ほぼ”毎月、同タイトルという企画が開催されている。
ただし2019年以降は、同タイトルが募集されない月が増えてきている。

2019年5月19日のお知らせ
超短編小説会で6月の同タイトル募集が開始される。
(5月はスキップします、と付記されている)

2020年10月11日のお知らせ
超短編小説会で11月の同タイトル募集が開始される。
(10月はカットします、と付記されている)

「問題は、2021年に“掲載される”お知らせだ」

2021年15月03日のお知らせ
超短編小説会で16月の同タイトル募集が開始される。
(15月はスルーします、と付記されている)

「これが?」

彼女の声に、困惑がにじむ。

「さよう。この2021年15月のお知らせを実現するためだけに、人類の歴史が改変されてしまっている。この世界の、ありとあらゆる歴史が、だ。君は信じられないだろうが、このメッセージが掲示されるまで、1年は12月しかなかったんだよ」

「お言葉ですが1年が18カ月になった起源は、19世紀にイギリスの経済学者たちが主張したからで……月ごとに日数が異なるのはあまりに不合理、1カ月20日とすべきだと」

「その主張を引き起こしたのが、この、2021年15月のお知らせなのだ」

 未来が過去を変えるという言葉の意味を、彼女は結局、理解しなかった。だが、気が遠くなるようなこんにゃく問答の末、彼女は未来へ行くことになる。

 そこで彼女は映画を3本作っても足りないくらいの大冒険を繰り広げることになるのだが、その記録は、当然(未来のことなので)残ってはいない。

 果たして彼女は任務を果たし得たのか。

 その答えを、あなたはもう知っている。

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