旧同タイトル | イベント: 同タイトル | 2017年9月 | 文字数: 822 | コメント: 0

みっつの涙

みっつの時。 僕はおかあさんとお父さんと手をつなぎ、ぶらぶらとぶら下がることが好きだった。 右手はおかあさん。 左手はお父さん。 浮いては、沈み、浮いては、沈み、ぶらぶら揺られながら前に進むんだ。 宙に浮いて進むので、空を飛んでいるようで楽しかった。 でも、暫くすると、おかあさんは決まってこう言うんだ。 「もう腕痛いわ。勘弁して(TT)」 でも僕は、3人で手をつなぎ、一体化し一つの生きもののようになったこの時が、一番好きだった。 おとうさんとお母さんがいるから、僕が存在している、と思えた。 共同体であることが、妙に心地よく、楽しく、安心できた。 怒るときは3人で怒り、泣くときは3人で泣き、笑うときは3人で笑えた。それがとても幸せな気持ちになれた。 ある日、お父さんとおかあさんは大喧嘩をしたんだ。 僕は、隠れて見ていたんだけど、とても怖かった。 おかあさんは怖い顔で泣いていて、お父さんも怖い顔で泣いていた。 僕も、悲しくなって泣いたよ。 今よっつになった僕は、おかあさんと暮らしている。 右手はおかあさん。 左手のお父さんはいなくなった。 なのでもう、僕はぶらぶらとぶら下がることができなくなったんだ。 お父さんとお母さんが喧嘩した日のあと、おかあさんと僕は家を出て、お父さんと離れて暮らすことになったんだ。 きっと、あの日流したお父さんとお母さんと僕のみっつの涙のせいで、一緒に居られなくなったんだろう。 でも僕は、あの時、3人で一体化したときが、一番幸せだった。 願わくばもう一度、僕は3人で1つになり、暮らしたい。 右手はおかあさん。 左手はお父さん。 僕はおかあさんとお父さんと手をつなぎ、ぶらぶらとぶら下がることがとても好きなんだ。

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