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みっつの涙

みっつの時。

僕はおかあさんとお父さんと手をつなぎ、ぶらぶらとぶら下がることが好きだった。

右手はおかあさん。

左手はお父さん。

浮いては、沈み、浮いては、沈み、ぶらぶら揺られながら前に進むんだ。

宙に浮いて進むので、空を飛んでいるようで楽しかった。

でも、暫くすると、おかあさんは決まってこう言うんだ。

「もう腕痛いわ。勘弁して(TT)」

でも僕は、3人で手をつなぎ、一体化し一つの生きもののようになったこの時が、一番好きだった。

おとうさんとお母さんがいるから、僕が存在している、と思えた。

共同体であることが、妙に心地よく、楽しく、安心できた。

怒るときは3人で怒り、泣くときは3人で泣き、笑うときは3人で笑えた。それがとても幸せな気持ちになれた。




ある日、お父さんとおかあさんは大喧嘩をしたんだ。

僕は、隠れて見ていたんだけど、とても怖かった。

おかあさんは怖い顔で泣いていて、お父さんも怖い顔で泣いていた。

僕も、悲しくなって泣いたよ。





今よっつになった僕は、おかあさんと暮らしている。

右手はおかあさん。

左手のお父さんはいなくなった。

なのでもう、僕はぶらぶらとぶら下がることができなくなったんだ。

お父さんとお母さんが喧嘩した日のあと、おかあさんと僕は家を出て、お父さんと離れて暮らすことになったんだ。

きっと、あの日流したお父さんとお母さんと僕のみっつの涙のせいで、一緒に居られなくなったんだろう。

でも僕は、あの時、3人で一体化したときが、一番幸せだった。

願わくばもう一度、僕は3人で1つになり、暮らしたい。



右手はおかあさん。

左手はお父さん。

僕はおかあさんとお父さんと手をつなぎ、ぶらぶらとぶら下がることがとても好きなんだ。

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