日常 | 文字数: 701 | コメント: 0

ボタン

 夕方いっしょに帰るカナさんに「ねぇボタン付けってする?」って聞いてみた。 「うんするよ。でも最近ボタンのついたものはあまり着ないんだ」 カナさんは目が悪い。全盲で光も感じられないはずだ。 カナさんは立派だな。何でも一人でするし、仕事も努力して上を目指す人だ。 頑固かと思いきや、人懐こくて聞き上手・・・ だからカナさんとおしゃべりしながら帰るのは楽しい。  今朝食卓の上に見慣れぬボタンが置いてあった。 学生ボタンをおしゃれにしたような金属製の丸っこいボタン。 「おふくろ、つけといて」と息子の太一が言う。 太一の一張羅のカーディガンのものだった。  休みの日に裁縫箱とボタンと、針と糸とそれに糸とおし。 近視、乱視、老眼の身としては、糸とおしなくては、針仕事はできない。 とれてしまったボタン付けはめんどくさい。 カーディガンのほかにも夏用のパジャマ、半コート、上っ張りとほったからしのものをもってくる。 深緑色の半コートとピンクっぽい和服をリメイクした上っ張りは亡き母の手作りだ。 半コートはもう30年くらい前のものだけど、おばさん臭いデザインだったので、十分おばさんになるまで着なかった。母の葬式に行くときに黒の喪服の上にきたら何だか様になった。  コートのボタンは裏打ちボタンまであったので、私には母のようにきれいにはつけられない。 母は心をこめてボタンをつけ、この上っ張りのボタンホールを手縫いしたんだなと思うと、 私は確かに母に愛されていたんだと実感できる。  ボタン付けがおわった。ボタン付けはめんどくさいけど、できたらほっとした。

コメント

コメントはまだありません。