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みっつの涙

 あるところにお父さんと二人きりで暮らす子供が居ました。子供には友達が居ませんでした。お父さんは子供のためにロボットを作ってあげました。
「やぁ、君の名前は?」
「わぁ、ロボットが喋ったよ。お父さん」
「いいから、答えてあげて」
「ぼくは、ロイ。君、歳はいくつなの?」
「ふたつ」
「ふーん。できたばかりじゃないんだ」
「AIだけは2年前にできてたんだ」
「じゃあ、君の名前は?」
「ふたつ」
「お父さん! ダメじゃん!」
「あれ? おかしいな?」
「まぁ、いいや。じゃあ、今日から、僕は君を『ふたつ』って呼ぶよ」
「『ふたつ名』って奴ですね」
「お父さん、AIの教育方針について話し合おうか?」

 長いことロイとふたつは仲良くしていましたが、ロイが成長すると時々ふさぎ込むようになりました。
 お父さんは、折を見てロイに話を聞いてみました。ロイは周りをよく確認してから、お父さんに打ち明けました。
「お父さん、僕、やっぱり、人間の友達が欲しい」
 お父さんは、とうとうこの日が来たかと思いました。
「分かった。で、そのこととは関係ないんだが、実は、ふたつと君は別れなければならない。ふたつは長い間、人間と暮らしたAIとして、最先端の研究所で研究に協力することになったんだ。つらいだろうが我慢してくれ」

 しばらくして、一人の若者がお父さんの助手としてロイの家にやって来ました。ロイと同じくらいの年です。
「僕はロイ。君の名前は?」
「『みっつ』って呼んでくれ。よろしく、ロイ」
「よろしく、みっつ」

 ロイとみっつはあっという間に仲良くなっていきました。

 あるとき、なにかの話の流れで、こんな会話に流れになりました。
「みっつ、君は僕の初めての人間の友達なんだ。その前の唯一の友達はふたつっていうロボットだったんだ。かけがえのない存在だったけど、やっぱり心のどこかで『人間じゃないんだなぁ』って感じがしてた。今はどこかの研究所で頑張ってるらしいんだ」
 そのとき、みっつの両の眼から涙が溢れ出ました。
「ど、どうしたの? みっつ!」
「分からない。何も分からないんだ」
 みっつはかぶりをふるばかりでした。
 お父さんは驚いていましたが、何に驚いているのか分かりませんでした。
 消したはずの記憶があったこと? それについて感情を抱いたこと? そもそも感情を抱いたとして、どんな感情を抱いたんだ?

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