日常 | 文字数: 987 | コメント: 0

君のしおり

愛は可愛いものが好きだった。 テディベアシリーズのストラップを見つけては集めてたし、一緒にお出かけしては可愛いものを見つけて笑顔で教えてくれた。 愛はお喋りだった。 いつも私に話しかけてきて、色んなことを教えてくれた。このブランドの服は素敵。この女優さんはとっても綺麗。 お昼の時間にやってきては、笑顔で話してくれた。他愛もない会話だが、話し上手の彼女の話はいくら聞いても退屈しなかった。 愛は人といるのが好きだった。 ここのお店、多分気に入るから一緒に行こうとさそっては、私とお店を巡り歩いた。私から誘うと、二つ返事でどんな所でもついてきてくれた。 だけど、ある日、図書館に行きたいと言ったら断られた。静かな雰囲気が苦手なんだそうだ。彼女の性格からしたら確かにそうだろう。是非二人で行きたかったが、仕方なく、私はひとりで図書館へ行った。 翌日。私は一冊の本を借りてきた。 愛は聞く。何の本? 私は題名を読んだ。『心を映す本』。 おすすめ。気になったら読んでみて。 その次の日。私が本を返しに行こうとすると、愛にその本を貸してほしいと言われた。 私は嬉しくなって、司書さんに二度借りさせてもらった。 また次の日。 愛は死んだ。交通事故だった。 前を見ないで歩いていて赤信号を渡ってしまったそうだ。彼女の手には一冊の本が落ちていたと言う。 私が貸した本だった。 警察の人が来て、本を見せられた。 一番彼女と近しい存在だったので話を聞きに来たらしい。本には知らない しおりが挟まっていた。 愛のものだった。彼女のものとは思えないくらい質素で渋いしおりだった。 警察の人か教えてくれたのだが、 近くにいた人の話によると、彼女が しおりを挟んだ瞬間に事故が起こってしまった、とのことだった。 その時、彼女は泣いていたのでよく覚えていたらしい。 私は気づいた。 つまり、このしおりは彼女の人生の最期に読んだ場所を示している。 彼女が死ぬ直前に過ごした時を示しているのだ。 単純に気になった。本を好きではなかった彼女がそこまでして読み進めたかったもの。涙するほど、心に残ったページを。 貸したのは名言集だった。 そこには一言、「自分らしくありなさい」 と、書いてあった。

コメント

コメントはまだありません。