日常 | 文字数: 417 | コメント: 0

アクリルの宇宙で

「UFOキャッチャーってよ」 驚いた。目の前でクレーンのアームに首根っこをつかまれたグレイの宇宙人が、突然しゃべり出したのだ。 「攫われるゲームなんだよ」「あ。」 アームが力なく、落とす。 「おーい」 宇宙人は喋らない。ただ、眼差しは感じた気がして、コインを追加する。楽しげな音楽とともに、アームが再びターゲットに接触する。宇宙人は、大人しく腕をぶらーんと提げてこちらを見る。 「俺が落ちてきてからもうどれくらい経ったかな・・・気が付いたら、此処にいた。此処以外での生き方など、最早分からないのさ」 クレーンが今度はしっかりと宇宙人を運んでいく。 「君はすごいな、行くのかい。生きていく覚悟が決まったんだな」 宇宙人はストンと消滅し、声だけが残った。 音楽が戻ってくる。 馴染んだスティックから手を離すと、アクリルガラスに半透明の自分の姿が映る。 洗い立てのスーツが宇宙服のように、ふわふわと浮かんでいた。

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