prologue 兄妹
清々しい朝日が照らす町。 無数の家の窓から、その朝日が射し込む。 「ふわぁ…」 「おっ、おはよう小百合。」 「うん、おはよう…、お兄ちゃん…。」 眠たい目を擦りながら、リビングに足を踏み入れる、七宮 小百合(ななみや さゆり)。 その兄である快斗(かいと)。 二人は高校生であり、二つ歳が離れた兄妹。 二人は兄妹関係でも仲が良い。 「小百合、兄ちゃんはもう準備できたから、急げよ。」 「ん~、ちょっと待ってて~。」 朝食を食べ終えた所、小百合は身仕度をし、髪を結んでいる最中だ。 小百合は朝に弱いため、髪を結ぶスピードも遅い。 「はぁ…、しょうがないな…。」 「ん?お兄ちゃん?」 「櫛、貸してみ。」 「あ、うん…。」 快斗はそう言うと、小百合から櫛を受け取り、小百合の髪をとかす。 小百合は長髪のため、髪をとかすのにも時間がかかるよう。 「小百合、そろそろ髪切った方がいいんじゃないか?」 「え~、切りたくないよ~。」 確かに、小百合の髪は腰まで伸びてきていた。 これでは髪をとかすのも大変だ。 「そんな事言ってられないだろ?今度床屋にでも行ってきな。」 「む~…。」 小百合は頬っぺたを膨らまして不貞腐る。 それほど髪を大切にしていたのか。 「おう、快斗!」 「うぃす。」 8時の教室。 快斗の友達である一之瀬 太臥(いちのせ たいが)が、快斗に駆け寄った。 快斗のクラスががやがやと響き渡る。 その中で快斗が一番静かだ。 「お前今日テンション低くね?大丈夫か?」 「これが普通だよ。悪いか?」 「別に悪くねえけどさ…。」 快斗は机にうつ伏せになる。 快斗は一応、太臥達よりあまりわいわい騒ぐ方ではない。 誰よりも静かに暮らしていきたい…そんな性格だった。 「おはよ、快斗君!」 「おう。」 「おっす、莉沙!」 快斗と太臥の昔馴染みである東間 莉沙(あずま りさ)。 柔らかそうな髪を揺らしながら、莉沙も駆け寄る。 「そういや快斗、最近小百合ちゃんとはどんな感じだ?」 「昔から変わってねえよ。自堕落のままだ。」 「え~?小百合ちゃん大丈夫なの?」 「俺はそれでも平気だけどさ。」 妹である小百合は、快斗にとって自堕落だ。 すぐに怠けるお調子者だが、信頼されているなら何だっていいと、快斗自身はそう思っている。 「小百合ちゃんに久々に会ってみたいわね。うち、弟がうるさくてさ…。」 「じゃあさ!今日快斗ん家行かね?」 「は?何でいきなり。」 「あ、それ私も思ってた!小百合ちゃんにも会いたいしね。」 「二人とも、小百合目当てだろ。」 この二人は絶対に妹目当てだと確信した快斗。 昔から知り合ったものなので、太臥と莉沙が小百合に会いたがる気持ちもわからなくもない。 快斗はそう思っていた。 「別にいいけどさ、小百合はいきなり顔出してもリアクション薄いぞ?」 「えぇ、そこがいいじゃない。」 「ちょうど午前授業だけだし、快斗もいいだろ?」 「あぁー。」 快斗は腑抜けた声で返事をした。 快斗は友達と一緒に過ごすのは嫌いではない。 「「おじゃましまーす!」」 学校が終わり、七宮家に訪問した太臥や莉沙。 「あ、お兄ちゃんお帰り…あれ?」 「小百合、今日は太臥と莉沙が遊びに来たからな。」 「小百合ちゃん、久しぶりね!元気してた?」 「うん。まあ…ね。」 小百合は急に彼らと目が合ったせいか、少々もじもじしていた。 「小百合ちゃん、いつの間にかこんなに背が高くなったな。俺が想像してたのと全く変わってるぜ。」 「そ、そうかな…。」 「あ、赤くなってる!小百合ちゃん可愛い~♪」 「……。」 莉沙に抱き締められ、小百合は黙ってしまった。 「まあ、小百合は昔結構ちっちゃかったからな。今はこんなに体が成長しているよ。」 「確かに!なんか小百合ちゃん、胸大きくなったね!」 「あっ、ちょ…!」 小百合の体が成長している事を聞かれた莉沙は、突然小百合の胸を触り始めた。 恥ずかしさのあまり、小百合は顔を真っ赤にさせる。 「おい莉沙、小百合ちゃんが可哀想だろ?」 「ううん、大丈夫…。」 「太臥、莉沙、お前達は部屋に行っててくれ。」 「はいよ。」 「はーい♪」 快斗は台所へ向かい、太臥や莉沙は快斗の部屋へ向かった。 小百合もその場を離れ、自分の部屋へ向かう。 「……。」 小百合は自分の部屋に足を踏み入れると、胸を押さえてドアに寄りかかっていた。 (そんなに胸…、おっきくなったかな…。) 今思うと、結構恥ずかしくなる小百合。 息も少し弾ませていた。 一方、こちらは快斗の部屋。 快斗達は、自分達の昔の写真を見ていた。 「あ、これ懐かしいな!」 「確かこれ、小4の時だっけ?」 「小百合ちゃんもこんなにちっちゃかったんだなぁ。」 「…お前ら小百合のばっか見てるけど、大丈夫か?」 確かに、太臥と莉沙は昔の小百合しか見ている模様しかなかった。 「大丈夫!ちゃんと快斗君のも見てるから♪」 「そういう問題かよ。」 莉沙はピースをするに対して、快斗は溜め息をついた。 「あ、これは俺達の卒業写真だな。」 「何だかんだ言って、小学校もなかなかのもんだったよな。」 「まあな。こん時、小百合は俺が恋しくて泣いていたな。」 「二つ歳が離れてるんだっけ?快斗君と小百合ちゃん。」 「ああ。」 「でも、小百合ちゃんの可愛さを知ったのは、中3くらいかな。それより前は知らなかったもの。」 「それくらい前だったか?」 「もちろんよ。快斗君と同じクラスになったのも、中学で初めてだったし。」 実は莉沙は、小学校で快斗と太臥と離れてしまったのだ。 しかし、中学校に入学してから再会し、再び三人で過ごす時間が蘇った。 「高校決める時も皆同じ意見だったし、俺達ってなんか似てるよな。」 太臥はそう呟いた。 それを聞いた快斗も、少し笑った。 「……。」 一方、小百合は快斗の部屋の前で立ち止まっていた。 三人の笑い合う声が聞こえる中、小百合は下を向いて黙っていた。 数時間経つと、太臥と莉沙は帰宅した。 「あいつら帰ったよ。」 「あ、うん…。」 小百合はリビングのソファーに腰を掛けていた。 その上、小百合は何かぎこちない様子。 「…?小百合、どうかした?」 「…。あ、ううん、何でもない。」 「そうか?何かあったら兄ちゃんに言えよ?」 「うん…。」 「さて、母さんも遅いから、先に夕飯食ってようぜ。」 「うん。」 快斗がそう言うと、小百合は立ち上がり、台所へ歩み出す。 小百合にとって、快斗はどのような存在なのか、兄としてどう関わるのかは、未だまだ知らない。
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