日常 | 文字数: 1456 | コメント: 0

日付の繋ぎ

何もしなくても明日は来る。 人は誰しもがそう言う。 でも、明日はどうやって来るのかは誰も知らない。 目を開けると私は見知らぬ場所にいた。 青い天井。白い壁。黒い床。そして私が入っている液体で満たされた縦長の器械。そこで初めて上の方からチューブで繋がれているマスクをしていることに気がついた。 しばらくぼーっとしていると液体が減っていき正面が開いた。マスクを外しゆっくりと外に出てみた。それと同時に、部屋の奥の方の扉が開き、私と同じ白い服を着た金髪の20代前半の男が入ってきた。 「やあ、待ってたよ」 「あなた誰?」 私の質問に答えることなく男は私の方に近づいてきた。 「手を出して」 「どうして?」 「いいから。ほら早く」 まるで蛇のように鋭い眼で見つめられ、渋々手を出した。すると男は私の手に何かを握りしめさせた。 「いいか、必ずこれを渡すんだ」 「誰に?それよりもあなた誰?」 「俺が誰かはそのうち分るようになるさ。まあ、俺もついさっき知ったばかりなんだがな」 「これは何?渡さないとどうなるの?」 「知りたきゃ試してみればいい。もう俺には関係ない事だ」 「何で教えたくないの?」 「時間だな。せいぜい楽しめよ」 男はふっと笑うと薄くなっていき、そのまま消えてしまった。 一人取り残された私は手を開き彼から受け取ったものを見た。それは、いくつもの歯車が彫られたただの懐中時計だった。穴が開くくらいじっと見たが何も分からなかったので、それをポケットに入れ、彼が入ってきた扉へと向かった。 扉は近づくだけで開き、奥にはたくさんの器械に囲まれたベッドがあった。近づくと急に激しい眠気に襲われそのままベットの上に倒れた。 夢を見た。 世界。いや、地球が見てきた今までの事。それらが流れる水の如く次々と私の中に知識として入ってくる。 ある程度の歴史が過ぎだ頃、さっき男から受け取った懐中時計の事が分かり始めた。 これの正式名称は"時計型記憶装置"。世界の明日がどのように来るのかを知ろうとした哲学者が、その時代には考えられないような技術を使い、初めに私が入っていた装置を作り、時間を人の形として具現化した。そして、その具現化された時間が持っていた物こそが"時計型記憶装置"だった。 つまり、具現化された時間、もとい"今日"とは私の事である。そして、私が存在し続けることが出来るのは"時計型記憶装置"を"明日"に渡すまで。渡さなければ、今日という日が永遠に終わらない。 そこまで分かった頃には、流れてくる歴史は無かった。さっきの男、もとい昨日が言っていた"せいぜい楽しめよ"の意味が何となく分かった気がした。 目が覚めた。 改めて持っている懐中時計を見た。 「これを渡さなければ私は存在し続けられる」 確認の為に呟いてみたが、もう心の中では決心がついていた。 「本当にそれでいいのか?」 そんな声が聞こえた気がした。 「うん。時を紡ぐことは私たち"今日"にしかできないことだし。それに、ここに居ても眠るだけなんだもん」 私の言葉に返す声はもう聞こえなかった。 ベッドから降り隣の部屋に行くと、黒髪の小さな女の子が機械から出てきょとんと立っていた。 そして私は懐中時計を持ったまま笑顔で"明日"に近寄った。 「待ってたよ」

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