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王子様は振られ役(後編)

気が付くと2時間も経っていた。

京「もう、そろそろ8時になりそうね」
裕「時間が経つのは早いですよねー」
舞「そうね。でもメインイベントはここからよ」
花「何をやるの?」
裕「このイベントに参加している人でパレードをやるんですよ」
翔「いわば、大名行列ってやつだな」
舞「ずっとこれに参加したかったのよ」
花「ふーん、私はパスするよ。仮装してない人が参加すると目立ちそうだからね」
翔「俺もパス」
京「了解。1時間くらいで帰ってくると思うから、さっきの集合場所で待っててね」
花「気を付けてね」

3人は人混みの中に入っていった。

翔「っと…一花はどこか回りたいところはあるか?」
花「ううん。歩きすぎて足が痛いから、ちょっと休みたいかも」
翔「そうか、たしか…最初の集合場所には座るところがあったからそこに行くか」
花「うん」

さっきまで道にいた人はほとんどがパレードに行ったらしく目的地までは人にぶつかることなく歩くことができた。
空いてるベンチを見つけると私たちは微妙な距離をおいて座った。するとすぐに、スマホを取りだし会話することなくお互いに使い始めた。

翔太は学校で私が困っているとすぐに助けてくれる。いつも側にもいてくれる。
でも、それはきっと幼馴染みだから、親にそうしろと言われているから。
そうに違いない。
たしかに側にいて欲しい。翔太のことは好きだと思ってる。
でも…その好きは異性としての好きなのか、それとも友達としての好きなのか。それは、リアルで誰かと付き合ったことの無い私には分からないことだ。

花「………はぁ」
翔「どうしたんだよ、ため息なんてついて」
(実は貴方のことを考えてました。なんて言えないな)
花「ううん。何でもないよ」
翔「そうか」

翔太が徐に立ち上がった。

翔「喉乾いたから何か飲み物買ってくる」

そのまま駅の自動販売機の方へ歩いていった翔太が見えなくなるのを確認し、スマホの画面に視線を戻そうとしたとき、頭の上から声が聞こえた。

「なあ、姉ちゃん。一人?」
「俺達と遊ばない?」

顔を見ると知らない柄の悪い二人の男だった。

花「遊びません。それに私は一人じゃありません」
男A「なら、姉ちゃんの連れが来るまででいからさ。なあ?」

男は2人は私を挟むように座ろうとしてきたから私は立ち上がった。そして歩き出そうとしたが、片方の男に肩を掴まれたため前に進めなかった。
急に、恐怖と不安に襲われた。心臓の鼓動が早くなり呼吸も苦しくなり頭も真っ白になり、手先が冷えるのを感じた。

花「…は、離してください」
男B「冷たいねー。ちょっとだけどいいんだからさ」

男の手が肩から手首へと掴む場所を変えようと手を離したその瞬間。前から伸びてきた手が私の腕を掴み手前に引いた。バランスを崩し、腕を引いた人にぶつかった。全体重をかけたのにも関わらずその人はよろめくことなく、むしろ足元がふらふらする私を抱きかかえて支えてくれている。

男A「何だ、テメー!」
男B「邪魔をするなら容赦しねぇぞ!」
「こいつふ俺の連れだ。これ以上、俺の姫に手を出すんだったら警察を呼ぶぞ」
男A「ちっ…仕方ねぇ。行くぞ!」
「こういう奴らって本当に典型的なことしか言わないよなー」

パタパタという足音が小さくなっていき、やがて消えた。
声から私が今誰にしがみついてるかはすぐに分かった。

花「…翔太だよね?」
翔「ああ、そうだ。大丈夫か?」

私の頭を優しく撫でた手の温かさに安心し、自然と涙がこぼれ始めた。

花「…怖かったよ…翔太。助けてくれて…ありがとう」
翔「俺はずっと側にいる。一生お前を守り続けてやるよ。だから…もう泣くな」

泣きじゃくる私に囁いた翔太は包み込むように抱きしめてくれた。
しばらくしてようやく泣き止んだ私には疑問が出てきた。

花「ねえ、どうして私が絡まれてるって分かったの?」
翔「一花の飲み物のリクエストを聞くのを忘れたから戻ろうとしたら絡まれてるのが見えたんだ。それでだ」
花「私のことを姫って呼んだってことは翔太は王子様ってこと?」
翔「いいや、俺はお前の王子様なんかじゃない、だって、"王子様は振られ役"。だろ?」
(確かに、私が書く物語で王国恋愛ものでは王子様は姫に振られている。姫が恋するのは必ず…)
翔「俺は姫のことを迎えにいく騎士だ。どんな時でもお前を守るし、助ける」
花「…ふふ。自分のことを騎士って言う人を初めて見た」
翔「俺なりの一花への告白のつもりだったんだけどな…どうだ?」

翔太は私の隣に手を置いた。
(今の私には分かる。私は翔太のことを友達としてではなく異性としての好きだ)
私は何も言わず微笑みながら翔太の手に指を絡めて繋いだ。
(こんなに嬉しい気持ちになるものなら少しくらいイベントに興味をもってもいいかもなー)

繋がれた手はパレードから3人が帰ってきても離れることはなかった。

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