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うまくいかない

何をやっても、俺はうまくいかない。

* * *

「すまんね、中田くん。この会社はもうダメなんだ」
俺が入社して半年、会社が潰れた。
俺が甘かったんだ。どうせ思い込みだろうと考えていたから、せっかく入れてもらえた会社をダメにしてしまった。
昔からそうだった。俺は何をやってもうまくいかない。
学生時代、入部しては廃部の憂目に遭い、バイト先は相次いで潰れた。もはや呪いだ。
子どもの頃からの夢だった警察官を志してしまうと、この国の治安を脅かしかねない。
不思議なことに家族は存続していた。俺にとってはそれだけが救いだった。
だが定職につかない俺のことを、おそらく両親はあまり良く思っていないだろう。
何か仕事をしなければ。俺の呪いが及ばないような仕事を…
色々と探し歩いたが、どこに行ってもやはりうまくいかなかった。
そんな俺に対して知り合いが勧誘してきた。
「この会社の会員になったらさ、毎日3人勧誘するだけで良い給料が入るんだよ。どうだ?お前もやらねぇ?」
すぐにピンときた。マルチ商法だ。
だがヤケになっていた俺は、その悪徳商法に乗っかってしまった。
結果、俺が加入して2日でマルチ企業が潰れた。

* * *

「あんたが団体殺しの中田だな?
…仕事を頼みたい」
サングラスのイカつい男が、札束を俺の前に投げた。
「お望みの就職先はどこだ?刑務所の看守かい?」
「いや、最近ここらで年配を狙った詐欺が横行していて。手口からして同一犯、しかも集団での犯行なんでさぁ」
俺はサングラスの男の立ち姿を観察する。
訓練を受けたような独特の規則感はないが立派な姿勢。ガタイが良く、とくに足腰はしっかりとしている。そして札束を投げるときの刺青。
「自分たちの縄張りは荒らされたく無いってことかい?」
「そいつもあるが、何よりカタギの御老人からぶん取ろうって性根の腐った考え方が気に食わねぇ。受けてくりゃしませんか?」
「…承った。安心してくれ。その詐欺グループは、俺のせいで潰れる」
数日後、俺が加入しようとした詐欺グループは全員揃って捕まり解散した。
うまく仕事に結びついたとはいえ、昔夢見た警察官とはかけ離れた職業だ。
やはり、俺の人生はうまくいかない。

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