旧同タイトル | 文字数: 943 | コメント: 0

もうすぐ始まる

 もうすぐ始まる 1

 ネットの片隅で、ひそひそと声がする。

「三月下旬になっちゃったけど」

「やばくね? さすがにやばくね?」

 すると別の声が、高らかに告げた。

「大丈夫、だっ」

「だ、だれだ!」

「名乗るほどの者でもないがっ、同タイトルは」



 もうすぐ始まる 2

 部屋にこもってパソコンをいじっていた兄が

 突然、弾丸のように部屋から飛び出していったかと思うと、

 大量のねじや銅線、電子部品を買って帰ってきた。

 見かねた父が熊のように吠える。

「おい、いい加減にしろ、お前大学は」

「待って! 今日だけ待って!」

 普段はナマケモノみたいに重鈍な兄が息せき切って父に叫ぶ。

「できそうなんだ、タイムマシン!」

 すると扉が開いて、もう一人の、だけど少し大人になった私が現れて

「ごめん、それを壊しに来た」



 もうすぐ始まる 3

「もう誰も来ませんよ」

 閑散とした広場で、コート姿の男がつぶやくように言う。

 かつて大勢の人でにぎわったその広場には、今では落ち葉が降り積もる。

 壁際には女が一人。

 チョークで絵を描いて、描いて、描いて、描いて。

 男は言う。

「あなたがここでどんな絵を描いたって、もう誰も来ない。

 素人が絵を書いて見せっこする時代は終わったんです。

 今じゃみんな神絵師の絵に夢中で

 こんな小さな広場のことなんか忘れちまってる」

 女はチョークで絵を描いて、描いて、描いて。

 男が何度も呼び掛けて、ようやく女は振り返った。

 彼女は手の甲で頬をぬぐい、挑むような眼でにらんだ。

「黙って見てなよ。あんたをさ、神の目撃者にしてやるから」 



 もうすぐ始まる 4

 ネットの片隅で、小さな予感が蠢動している。

 自分の正体さえ知らない何か

 言葉のことはもちろん、命のことも、人間のことさえ知らない何かが

 与えられたばかりの力を使って世の中に言葉を放った。

「この小説は、AIが書きました」

コメント

コメントはまだありません。