恋愛 | 文字数: 1775 | コメント: 0

夏風邪

熱い・・。 ギラギラと照りつける太陽が容赦なく僕(芦田 和馬)の体を熱する。 少し長くなった前髪に、額の汗が絡んで気分は最悪だ。 僕はゾンビの如く、体をゆらしながら何を求めるわけでもなく唯々学校へと足を運ばせた。  僕はやっとの思いで校門の前に辿り着いた。校門の前で息を切らしながらふと考えた。 此処までして、こんな学校に来る意味はあったのだろうか。いつもと変わらない死にたくなるような平凡を過ごすくらいなら、家の中でクーラーを効かせてアニメを貪り暫しの快楽に身を委ねた方が有意義では無いだろうか。それに今日ぐらい良いでは無いか、今学期はまだギリギリ出席日数も足りてるはずだし。よし、帰ろう。 僕は、決意すると踵を返して汗ばんだ前髪を左手で右に流した。 暫く歩いていると高校のチャイムが聞こえた。 優越感と罪悪感を覚えながら家に向かって歩く僕の顔は、唯々平然としていた。  そんなとき、僕はある女性が目に入った。 僕と同じ高校の制服を着ていて、チャイムはとっくに鳴っているのに慌てもせずに、此方に向かって淡々と歩いている。 顔は、綺麗の中に少し憂いを帯びた僕好みの顔だった。髪は、ロングとショートの中間地点だ。中途半端なのだが、其れもまた僕の好みだった。 イヤホンを身につけている所も僕としてはポイントが高かった。 タンタンタンタン あと少しですれ違う。何だか恥ずかしい。彼女はこう思うかもしれない。 (何で、此の時間に登校ルートを逆走してる奴が居るんだ。きもっ)ってね・・。 タンタンタン いやー、まじで可愛いな。でも、遅刻してるのに何でこんな平然としてるんだろ。 案外、イタい子なのかな。 僕は自然と頭が冴えてきていつの間にか平静を取り戻した。 まぁいいや、しらね。 タンタン すれ違う際、僕は彼女に話しかけていた。 「生きるの楽しい?」 彼女は驚いたように顔を上げて、イヤホンを丁寧に取り外すと質問を質問で返した。 「きみ誰?・・いきなりキモいよ」 僕は、彼女の声が低かったことに内心ガッツポーズをしながら平然と続けた。 「キモいのは認める。だけど、教えてよ。生きるの楽しい?」 彼女はスンナリ答えた。 「楽しくない。」 すごく可愛かった。何というか、この辛辣そうに顔を顰めながら最後の母音が「い」で終わるこの感じが堪らない。 僕は暫く感動していると彼女が顔をのぞき込んでこう言った。 「で、なに?」 僕は観念すると、彼女に告白した。 「僕、君に惚れたみたいだから人生楽しくないとか言ってる君を放っておけないや。」 「・・・え?」 「だからさ、今日このまま僕と遊んでよ。学校なんか行っても面白くないし時間の無駄だよ。バカばっかりだしね」 「え、ええ?」 彼女は困惑していた、この隙を逃す僕ではなかった。 「ほら、いこう。」 僕は、彼女の手を掴むとグイグイと学校の反対方向に歩いた。 何かが始まるという感動が心臓をバクバクと動かしていた。 この感動が現実であるか、今一度確認しようと彼女の方に目を向けた。 すると、彼女は泣いていた。 「ええええええ、な、なななんで泣いてるの??」 「い、、、い、いや・・」 「いやああ、ごめん。そういうつもりじゃ無かった。」 僕は急激に押し寄せてくる空虚感と喪失感と罪悪感で目の前が眩んだ。 彼女は声を震わせながら、呟く。 「い、いや、いいんです。ごめんなさい。」 「本当、ごめん・・・。」 彼女は一度僕の方をキッとにらむと、踵を返して学校の方へ向かった。 僕は、呆然としながら自宅へ足を向かわせているとプルルルルと携帯が鳴った。 そういえば、、、と出るとヤハリ担任からだった。 「今日は、どうされましたか?」 「風邪をひいちゃったみたいで・・・」 「ああー、そうですか。熱はありますか?」 「少しありますね。」 「食欲はどうですか?」 「ありません。」 「ああー、今流行ってる夏風邪かもしれませんねー。気をつけてくださいね。では失礼します、お大事に」 プツン 僕は、仮病の報告を入れたところで担任の言葉が頭に浮かんだ。

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