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タイムマシンの罠

 タイムトラベラーに会ったなら、ためらわずに聞いてみよう。

 平成の次って何ですか?

 私が出会った四人のトラベラーは、みんな違う答えを返した。

「パラドクスが怖くて言えない」

「戦争が起きてうやむやに」

「平成は終わらない」

 彼らが本当のことを言っているのなら、平成三十年五月現在、

新年号はまだ、確定していないらしい。



 他方、タイムトラベラーがいないことは、故ホーキング博士の実験でわかっている。

 彼はパーティーを開き、それが終わった後に、未来へ向けて招待状を出した。

 パーティには誰も来なかった。だからタイムトラベラーはいない。証明終了。

 ホーキングが端的に示した、人類の限界。

 それと、タイムトラベルの可能性について語った十一の理論。

 それら全てがこう結論している。「人類には早すぎる」




 ただ、四人のうちの一人だけは、他のトラベラーと違う答えを返した。

『年号の候補は十一個ある。

 好きなものを言ってくれ。その年号が採用されるよう、歴史をねじ曲げて見せる』

「そんなことができるのですか? それはすごい、まさに神のごとき力だ」

 その青年は肩を落とした。まだ二十代半ばに見えるのに、その目は驚くほど老いていた。

『どの年号になろうと、俺には関係ない。

 俺は十一の時代、すべてを回った。だけどそのどこにも、あいつはいなかった。

 俺は、あいつがいる未来に、到達できなかった』




 史上最初の飛行機製作者、ライト兄弟が初飛行を成功させたのは

1903年。彼らが成功するまで、多くの発明家が新技術の確立に挑み、手痛い失敗を被った。

 史上最初のタイムマシン製作者、大学教授のアレクサンダー・ハーデゲンが

自身のマシンを完成させたのは、1894年。彼はどうしても死んでしまう恋人を救うため

絶望的なタイムトラベルを何度も繰り返し、敗北した。



 過去なんて変えようがないことは、誰もが、その経験上知っている。

だけどライト兄弟が現れるまで、誰もが「空なんて飛べっこない」ことを知っていたのではないか。

 タイムマシンで人を救うことができないことは、誰もが、その経験上知っている。

平成三十年現在、「タイムトラベラーが恋人を救出した」というニュースは聞かれていない。

 だからこそ、と僕は思う。

 彼は必ず、十二個目の道を見つけるだろう。ホーキングが示した限界を超えて、十二個目の時代、

まだ誰も知らない時代に、たどり着くだろう。

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