ジョーク | 文字数: 1442 | コメント: 0

ラブコメによくあるアレ

住宅街、細い生活道路に結構高い塀の家が並び、飛び出し事故なんかも多そうな場所だった。 始業時間まではまだ間がある。 高校1年の9月、僕は朝の空気の中を、学校に向かってのんびり歩いていた。 その角を過ぎる時、微かに『いや〜ん、転校初日だっていうのに、遅れちゃう〜』という声が聞こえた気がしたが、僕が歩みを止めなかったのは、どこかにパン咥え女子との衝突→出会いへの憧れがあったからかも知れない。 どんっ! 衝撃を感じて僕は尻餅をついた。 目を上げると、同じ様に尻餅をつく美少女の姿があった。 アレやん! 少し小柄で、目の大きい少女が「あいたたた…」とか言いながら頭をさすっている。 「ご、ごめんなさい、ミユったらおっちょこちょいで」 こっちの視線に気付いてそう言うと舌をペロッと出した。 一人称名前呼びは許そう。リアルテヘペロもあざとい上目遣いも許そう、カワイイから。 しかし… 「頭ボサボサ」 つい声に出してしまった。 「ぎゃー!仕方ないでしょ!遅刻しそうでパン咥えて走ろうかって時に髪なんかいじってられないわよ!」 「あ、それはごめん」 立ち上がろうと身を起こすと、食パンが道路に落ちた。 自分の体に目をやると、胸の辺りにべっとりと赤い粘液が付いている。 「なんでジャム塗ってるんだよ!」 「お母さんが塗ってくれてたのよ!てか、急いでても素パンは咥えないわよ!」 「うわー、この辺なんかちょっと濡れてるよ…ってこれ牛乳じゃん!てめぇ牛乳パック持って走ってやがったか」 「そりゃそうでしょ。飲み物無しでパン食べながら走ったら喉詰まった時即酸欠で死ぬわよ」 「ガチだな、パン咥え走りガチ勢だな。出会い目的のパン咥えは許さん派だな」 「いや別に他の子のパン咥え走りに注文は付けないけど」 色々不満点はあったが、とにかく顔が可愛かったので僕は座り込む彼女に手を差し伸べた。 「いつまでへたり込んでんだよ」 「あ、ありがと」 少し照れながら僕の手を握って立ち上がろうとした彼女は自分の鞄を踏んで再び転んでしまう。 「きゃっ!」 翻るスカート、露わになる白い脚。 「だから何でスパッツなんだよ!」 「何かご不満でも⁈ガチの遅刻寸前パン咥え美少女はこんなもんよ?」 「美少女って言っちゃう?」 「え、違う?」 「うぐ…、いや、違わないけれども。でもマナーとして…」 「ミユだって転校初日のパン咥え走りだから、もしかしてって期待はあったのよ?」 立ち上がってスカートを払いながら言う。 「ちょっとワルそうで毛先の遊んでる背の高い男の子にぶつかって、怖いって思ったらニコッて笑った笑顔が子供みたいで、みゆの頭ポンポンってして、『大丈夫かよ、気ぃ付けろよ』って言われるかもとか思ってたのに。はいソコ、頭ポンポンしようと身構えない。不審者にしか見えないから」 「…」 「何?聞こえないよ」 「いや、僕毛先遊んでないし、制服も上までボタンかけててゴメン」 ミユは、笑みを含んだ上目遣いで僕を見つめた。 たまらず僕は目を逸らす。 「ミユもさ、養殖モノの天然美少女だし、お互い様だよ」 養殖モノの天然というワードに僕は科学技術の進歩を感じた。 「この流れだと、きっと同じクラスの隣の席だよ。これからも仲良くしてね」 とびきりあざといウインクが、僕の心臓を射抜いた。 彼女は2年生だった。

コメント

コメントはまだありません。