恋愛 | 文字数: 705 | コメント: 0

奇妙な花見

夜桜の下で、時折幽霊が目撃される。 * * * 「よう、圭子。今年もきたぞ。」 「えへへ、おかえり。雄二くん。」 夜桜の下に、2人並んで座る。2人は毎年春、決まって約束していた桜の木の下に来る。 「おまえが死んでもう2年か……」 「早いよね。ついこの間だと思っていたのに。」 そう、圭子は2年前に死んでいた。つまり幽霊である。 この桜の木は、まだ生きていたときに2人で花見に行こうと約束した場所だった。 「そうだ、ビール買ってきたぞ。さすがにもう飲めるだろう?」 「……うん、ありがとう。」 雄二は傍に二本の缶ビールを置いた。だが、2人ともそのビールには手を伸ばさなかった。 2人とも口数が少なくなる。桜が風に揺られる音がはっきりと聞こえる。 「……俺さ、死ぬ前にちゃんとお前のことを幸せに出来ていたかな。」 雄二が重い口を開ける。 「うん。私は雄二くんがいて幸せだったよ。」 圭子は呟くように返した。しかし、雄二には風の音しか聞こえていない。圭子の言葉は、届いていなかった。 「……なあ、圭子。 風強すぎないか?全然声聞こえなかった。もう一回大きな声で言ってくれ。」 「あんな恥ずかしいこと大きな声で言えるわけないじゃない!というかそんなこと気にしているなら なんで先に死んじゃったのよ!」 「仕方ないだろう、死んじゃったんだから。」 「まあ私も人のこと言えないよね。」 「よし!そろそろ飲むか!」 「ヤケ酒だぁ!生きていれば今年で私も二十歳!もう飲んでもいいでしょう!」 * * * 夜桜の下で、時折幸せそうに騒ぐ2人の幽霊が目撃される。

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