旧同タイトル | イベント: 同タイトル | 2018年6月 | 文字数: 676 | コメント: 0

ふつうではない

お兄ちゃんが行方不明になってもう半年だ。 * * * 「いただきます。」 家で食卓を囲む度に、私は思い出してしまう。 4つの席には両親と私だけが座っており、ひとつ寂しげに空いている。 兄の孝宏が家を出て行方不明になってから半年、未だに顔も見ていない。 両親は最初は怒っていたが最近は呆れて話題にも出さない。 この家庭環境というか、家族関係は多分普通ではない。 どんな事情があろうと兄はこの家の息子であるはずなのに、その家出に対して「心配」の色は見当たらない。 ある意味兄は家出をして正解だったのかもしれない。あるいはこれこそ兄が家出をした理由だったのだろうか。 兄は見抜いていたのかもしれない。自分が両親からほとんど見放されていたことを。 「……行ってきます。」 いってらっしゃい、という返事は来ない。私も義務教育で通わせてもらっているだけなのだろうか。子どもの私には、それも推測の域を超えることはできない。確かめるのが、怖いのだ。 「……お兄ちゃん。だから、家出したの? 私には…分かんないよ。私も出た方が良いの?それともここに居た方が良いの? …教えてよ、お兄ちゃん。」 登校中、思わず声に出して呟いてしまった。 「えっ、何か言った?ちょっと電波悪くて聞こえなかった。」 「あっ、ゴメン、何でもない。それよりもね、今日から数学が関数って奴なんだけど…」 言い忘れたが、兄の行方不明は所在が不明なだけであって、電話すれば普通に出るし、何なら毎日電話やメールをしている。 この兄、何故か音信不通ではない。

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