日常 | 文字数: 576 | コメント: 0

黄金夜の博士

黄金夜の博士は大声で叫ぶ、世界は暗すぎるのだ。

黄金の夜は朝を否定する。闇の中であるから黄金の夜は輝くのだ。

黄金のその果てを博士は模索する。

世界の為に、まだ見ぬ未来の僕の為に、今もどこかで過去にとらわれた君の為に。

三千世界を遠眼鏡で見通し、刃を潰したハサミで輝きの欠片を集める。

黄金夜の博士は自分が誰なのか知らない、博士は最初から博士だった。

だから喜びも悲しみもない、ただ焦りだけを持つ。

世界の為に黄金の夜を作るのだ。

0と1を積み重ね黄金夜の設計図を描いては破る、誰かが喜べば誰かが悲しむ。

博士はそれが我慢ならない、ただ焦りだけが彼を動かす。

手遅れになるまえに黄金の夜を作り上げなくてはならない。

錆朱の外套を羽織り、灰色の夜を破る為に博士は世界を探して、0と1を積み上げる。

実験を繰り返し、フラスコを幾万回も叩き割る。

黄金夜の博士は諦めることができない。

伸ばされた手を掴むために、打ち下ろされた鉄槌に砕かれぬように。

僕が死ぬ前に、君がいなくなる前に、黄金の夜を作り上げるのだ。

灰色の世界に博士の声が聞こえる。

僕の返事は博士には届かない。

それでも僕たちは黄金の夜を待ち続ける。

黄金夜の博士が諦めない限り。

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