日常 | 文字数: 780 | コメント: 0

電車にて

 部屋から出ると電車。  横で誰かが寝ていて、前で誰かがスマホ打っている。小竹向原、と電車が言う。  もう30度を越えたと言うのに社内は弱冷房で、脇の下がじっとり濡れている。  座席に座った誰もが寝ている。ベッドでは寝ない。自分の部屋で寝たはずなのに。  僕のHUAWEIから軽い音がしたので、Pinコードを打ってTwitterを見る。 「君って自分のディスコード持ってんの?」 「持ってないよ」  ゲーム好きのスコットが国境を超えて絡んでくる。 「じゃあさっきRTしたのは何」 「何でもいいじゃないか」 「そんなことよりゲームしないか? 楽しいからさ」  来月買うよ、と言ってアプリを閉じる。江戸川橋と電車が言う。  僕は電車によって揺れている。身体が動いている。でも窮屈だ。バックが膝に当たって痛い。見上げると苦しそうな顔の彫像があった。立っている人は全部彫像。座っている人は辛うじて、部屋で寝ない人。次は飯田橋。  ディスコードを開く。チャンネルを開き自分の部屋に入る。  僕の部屋で、誰かが僕の知らない予定を話していた。 「次はいつ会おうか」 「月曜日の夜、銀座とか」 「いいね。そこでミートアップをしよう。そのあと打ち上げだ」  僕はそれを眺める。スクロールしていく。履歴がたくさんある。僕はディスコードを閉じる。そしてRTする。僕の部屋をRTする。 『大丈夫ですか?』  OLの彫像が僕に話しかける。 『降りましょうか? 一緒に。次の駅で』  次は有楽町。 『すみません、大丈夫です』  ありがとうございます、僕は席を立って歩く彫像になる。OLはほっとした様子で座席に腰掛け、部屋で眠らない人。  電車のドアが開く。慣れない空気と匂いに包まれる。一週間ほど髭を剃っていない。

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