日常 | 文字数: 1613 | コメント: 0

ガーリック・キス

 逃げ出さなくては    今だけは不味い絶対に逃げ出すのだ。  よりによってなぜ今なのか、怪獣から逃げまどう一般人のように、僕は踵を返して全力で逃げ出した。  ――昨日、ゲームをしすぎたせいで寝坊してしまった。倒れた目覚ましを見れば、すでに一時限目は終わっていた。  親は早朝に仕事に言っていため、起こしてくれなかったらしい。  こうなったら、いっそ午前丸々休んでやろうと思い、のんびりと準備をして面倒だから朝ご飯と昼ご飯を一緒に食べてしまおうと、学校への道の途中にあるラーメン屋による。  いつもなら、もやしラーメン、麺カタ、油マシマシなのだが、今日は気分が違う。  ・・・無性にニンニク油ラーメンが食べたくなってしまった。  一度食べたいと思ったのなら、もう胃がそれ専用になってしまう。  まぁ、多少口が臭くともなんとかなるだろう。というわけで大将にニンニク油ラーメンを注文す、勿論麺カタ、油マシマシだ。  ゲップ、・・・少し食べ過ぎたかもしれない。一応ミントのガムを口に放りこんだが、気休めだろう。  校門をゆうゆうとくぐり、下駄箱へ、職員室へ行き遅刻届を貰う。 「お前、口が臭いぞ」  言われてしまった。そりゃしゃあない。胸を張って「にんにくラーメン食べてきました」と言うと、頭をはたかれた暴力反対。  教室へ行く途中にキンコーンとチャイムが鳴る。どうやら昼休みのようだ、しかして僕のお腹は一杯だ、自販機の前で時間でも潰そうかしらん。  そう思い、階段前までいくとクラスの友達が僕に気付いた。 「今日、委員会の準備あるって言ったよね?」  長い髪をサラリと流して、ジト目で睨み付けられる。男に生まれたならさぞ迫力満点だったろう彼女の三白眼から目を逸らしつつ。 「この埋め合わせは、必ずするから許してほしい。お願いしますなんでもしますから」  両手を合わせて平謝り、ここで言い訳をこねくりまわして彼女を怒らせると3倍返しではすまないことは経験済みだ。 「なんでも?」 「・・・金額にすると1000円までなら、大丈夫です」  いやまてよ、さっきラーメン食べたから1000円無いかもしれない。今からまけてもらえないだろうか。  僕が関西人ならそれも可能かもしれないが、残念ながら関東圏の人間だ。 「じゃあキスして」 「10円玉100枚になるけどそれでもいいなら・・・今なんて?」  えっ? 怖い、なにこの展開。起承転結作れよ。 「いや、なんとなく。勢いで言っただけだけど、嫌?」 「・・・明日ならOK」  なんせ今口の中がにんにくパラダイスだ。人生初めての彼女ができるかもしれない奇跡を口臭のせいでふいにしたくない。 「ハァ? 何それ」  詰め寄られる。それ以上近づかれたら、僕の口臭・ニンニクテリトリーだ。  そんなわけで僕は階段に向かって走り出した。 「来るなぁああああ」 「ちょっと、待ちなさい。どういうリアクション。失礼すぎるでしょ。振るなら振るでもうちょっとやりようがあるでしょ!?」 「いや、君のことは好きだ。でもキスは明日にしてくれええええええええ」  そのまま諦めてくれればいいものを、女子にあるまじき速度で追いかけてくる。  クゥ、手前を曲がって上に登る。扉を開けると屋上、まだ昼が始まったばかりなので誰もいない。  こうなりゃ、ここで逃げ切ってやる。と思ってすぐに腕を掴まれて、前のめりに転倒。  青空と彼女の唇。柔らかい感触、事故半分、してやったり半分。 「ってなんでニンニク臭いのよ!!」  そのままチョップ受ける。これが僕のファーストキスだった。

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