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Chapter5 狂い出す過去④

《若葉視点》
 涼介君から、私達の過去を聞きたがっていた。
 本当は思い出したくない過去。
 …だけど、涼介君になら言ってもいいかな。いつか話そうと思ってたし…。


 「…私達がまだ小さかった頃、有名な名家に住んでたの。
 そこで私とお姉ちゃんは、お父さんから刀を習った。
 私のお父さんは、子供の頃からずっと古武道を習ってて…、それを見つけたお姉ちゃんは、「自分も刀を振る舞いたい」って言い出したの。」
 「…じゃあ、姉貴のあの3つの刀は全部…?」
 「そう。全部お父さんから伝授された。
 斬裂刀も、鬼薙刀も、私の神楽刀も…全部。」
 あの頃は、お父さんから厳しく育てられてきた。
 私とお姉ちゃんが刀を始めたきっかけは、お父さんが刀を振る舞う姿を見て、「刀を持つ者は正義」と言われた。
 その「正義」を、私達は持ちたかった。

 お姉ちゃんは私と違って、振る舞いが良かった。
 だから同時に、3つの刀を扱っていた。
 「斬裂刀」と「鬼薙刀」。
 その2種類の3つの刀は、全てお父さんから教わったものだ。

 「…ただその時…、私達の家が襲撃されたの。」
 「…その襲撃者が…、大屋と黒沼か?」
 「…うん。あの時はお父さんが立ち向かったのだけれど…。
 …圧倒的に力は、大屋の方が上だった。」
 「……。」
 あの頃のお父さんは、確かにとても刀に関しては力強い方だった。
 大屋達に襲撃されたあの日、お父さんは1人で大屋達に立ち向かった。
 しかし、何の抵抗もなく、惨殺された。それうえお母さんも、何もできないまま殺されてしまった。
 私達は…、ただ隠れて親が殺されるのを見ているだけだった。
 「それで姉貴とお前は…、そこで離れ離れになったって事か?」
 「…うん。」
 そう。親が殺されてからの翌日。
 お姉ちゃんが…、家から出ようとした時だった。



~8年前~
 『お姉ちゃん、どこに行くの?』
 『…どこでもいいでしょ。』
 『まさか、お父さんやお母さんが殺されたから、ここを出ていくって言うの?』
 『……。』
 『…そうなんでしょ?ねえ?』
 『……。』


 『黙ってないで答えてよ!!』

 何も言わず出ていこうとしたお姉ちゃんに、私は怒鳴りつけた。
 お姉ちゃんは私の方へ振り向いたが、表情一つ変えなかった。

 『…お姉ちゃんは今、1人でいたいの。
 何も若葉が割り込む事じゃない。』
 『でも私…!お姉ちゃんと離れたくない!
 お姉ちゃんが遠くに行っちゃったら…!私はどうしたらいいの!?』
 『……。』
 『お姉ちゃん…!私…、寂しいよ…!ずっと一緒にいたいよ…!!』
 『……。』
 お姉ちゃんはぼろぼろと涙を流す私を、ただ見つめるだけだった。
 それからお姉ちゃんは、口を開く。

 『…ごめんね、若葉…。』
 『…!』
 『お姉ちゃんはもう…、自分で決めたの。
 いっぺんに親を亡くして、この先どう生きていくか考えながら出るから。』
 『でも…!』
 『だから若葉…、あなたはいい子だから、ここにいて。』
 『嫌だよ!だったら私も一緒に行く!だから…!』
 『…残念だけど、それはできない。
 これはお姉ちゃんが決めた事だから。』
 『……。』
 『…ごめんね。そして…、


 さよなら、若葉…。』

 『お姉ちゃん!!!』

 そう告げると、お姉ちゃんは振り返る事はなかった。

 どんなに声を上げても、お姉ちゃんは振り向いてくれなかった。

 ただそれが…、寂しく思えた。

 大好きなお姉ちゃんは妹の私を手放し、自分の生きていく道を探しに、どこまでも…、歩み続けた。



~それから1年後~
 来る日も来る日も…、お姉ちゃんは帰ってこなかった。
 そこで私は考えた。
 もしかしたら、お姉ちゃんはどこかで何かあったんじゃないかと。
 そう思った私は、すぐに神楽刀を持ち、外に出た。



 着いた先は、今住んでいる街・歌舞伎町。
 夕暮れの時だった。
 お姉ちゃんはここにいるんじゃないかと、私は思ってた。
 親が亡くなる前に外出する時、よくここに来ていた。
 だから馴染みの街にお姉ちゃんがいるんじゃないかと思っていた。

 そんな中、裏路地で何か騒ぎがあった。
 柄の悪そうな男達が集って、何かしているのを見た。
 凝視してみると、餓死寸前の猫に暴力を与えていた。
 それを見た私は、すぐに猫の所へ駆け寄り、立ち塞がった。
 「そんなのただの玩具だろ」と嘲笑われながらも、私は神楽刀を握る。
 私は我慢の限界になり斬りかかるが、私の方が動作は遅かった。
 難なく避けられ、まずはお腹に一発。
 そして顔、身体…至る所に傷を作られてしまった。


 「このガキ、駆け寄って堂々と邪魔しやがって。
 所詮玩具構えたガキなんぞ、俺らが負けると思ってんのか?あ?」
 「うぅっ……。」
 私は頬を掴まれ、目の前の男を見つめるだけだった。
 確かに今思えば、小さい子供が大の大人に勝てる訳なんてどこにもない。
 駆け寄って助けても、子供の私は所詮殴られ損になるだけだった。
 「おい、何か言ってみろよ。」
 「もう口利けないんじゃね?」
 「よし、じゃあトドメ刺すか。」
 この時私は、お姉ちゃんを見つけられずに殺されるのかと思ってた。
 でも、その時だった。


 「…おい。」
 「あ?」

バキッ!
 「うぐっ!?」
 私を掴まえていた男が、誰かに殴られたのが見えた。
 「な、何だてめえは!?」
 「…大の大人が子供に手を出すとはみっともねえな。」
 「この野郎、シメてやろうか!?」
 別の男が、助けてくれた男の人の胸倉を掴んだ。
 しかしそれを払い除け、顔に一発殴った。
 残りの男も、その男の人は簡単に殴り倒した。

 「…大丈夫か?」
 「は、はい…、ありがとうございます…。」
 そっと差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
 「こんな時間に子供がここで何をしているんだ?親はどうした?」
 「……。」
 男の人の質問に答えようとするが、私は言葉が出なかった。
 何せ、親の事を聞いてきたのだから…。
 「…そうか。」
 しかし何も言わなくても、その人はわかっていた。
 「この子供の親は、あの世に行ってしまったのだ」と。
 私はそう思えた。

 「お前、俺の所に来ないか?」
 「…え?」
 「こんな所で子供が1人歩き回っていたら危ない。俺はそんなのは放っておけないからな…。」
 「でも…、いいんですか?」
 「俺は構わない。親の代わりに、俺が面倒見てやる。」
 「……。」
 強面だが、優しいな瞳で私にそう言った。



 それから私は、名前や歌舞伎町で何をしていたのかをその人に教え、7年間世話をかけられた。
 私は名前も知らないその人を、「おじさん」と呼んでいた。
 そして私が今の年齢…15歳になった頃だった。


 「…もう行くのか?」
 「うん。もう大丈夫だよ。おじさん。」
 「お前は確か…、長い間ここにいる姉を探していたんだよな?
 …早く見つかるといいな。」
 「そうだね。」
 私はお辞儀をし、こう言った。


 「おじさん、今までお世話になりました。」



 そう告げて、私はおじさんの元を離れた。

 大丈夫、1人でも。

 1人でも、お姉ちゃんを探せる。

 だって、こんなに成長したんだもん。


 当時の私は、そう思った。

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