恋愛 | 文字数: 1335 | コメント: 0

バレンタイン ~PART2~

 バレンタインを間近に迫ったある日。  いつものように、先輩と飲んでいた。 「もう少しでバレンタインかあ」  どこもかしこもバレンタイン一色で、ここの居酒屋でもバレンタインに合わせたメニューが期間限定であり、それを見ながら呟いた。 「もらえる相手でもいるの?」 「いないですよ。僕みたいな人に、くれる女性なんて」 「なら。私があげようか?」 「え!?」先輩の目を見る。 「いや、先輩としてだよ。いつも飲みに付き合ってもらってるし、そのお礼として」 「それでも嬉しいですよ。女性からもらえるなんて」 「分かった」  そして当日。また先輩に飲みに誘われ、そこで一つの小さいチョコをもらう。 「チロルチョコって」 「嫌ならいいよ。返して」 「いや、もらいますよ。有難く」 「来月、楽しみにしているから」  そして3月14日。ホワイトデー。  初めて、僕から先輩を誘う。  僕が渡したのは、紅茶の詰め合わせ。  いつも会社で先輩が紅茶を飲んでいたから、好きだと思って、購入した。 「何これ?」そういって、包装を開ける。 「紅茶です」 「紅茶かあ。まあ、良しとするか。好きだし」 「なら、良かったです」  そして1年後のバレンタイン。  先輩からは板チョコ。  僕からは、小さい熊の縫いぐるみ。  そして1年後。  先輩からは、12種類の違ったチョコの詰め合わせ。  僕からは、ネックレス。  ネックレスを購入する際、店員から「彼女さんにですか?」と訊かれ、慌てて否定した。  ネックレスを先輩に渡すと、すぐに付けてくれた。  いつもはテキパキと仕事をこなし、部下の悩みも親身になって聞きアドバイスをする、頼もしい先輩と思っていたけど、ネックレスを付けた先輩を初めて “可愛い” と思い、少し照れた。  そんな僕を察してか「何、顔を赤くしてるの」と弄ってくる。 「お酒が回っただけです」と否定する。  そして1年後。  先輩は手作りのチョコをくれた。 「趣味の一環で作ったから」と前置きし、僕に寄越した。  有難く戴く。美味しいチョコだった。  僕が渡したネックレスを今でも付けてくれている。  そして僕はホワイトデーに、指輪を渡した。  去年がネックレスだったため、何を渡したらいいのか迷った挙句の結果だった。  先輩は驚いたものの「ありがとう」と言い、右手の薬指にはめた。  そして1年後。  先輩からのバレンタインは何もなかったが、帰り道、初めて手を握った。  僕はホワイトデーに「付き合って下さい」と告白した。  そして1年後のバレンタイン。  その日は初めて、先輩の家にお邪魔し、手料理を振る舞われた。  僕はホワイトデーに、何も渡さなかったが、意を決して『結婚』を申し込んだ。  先輩は何も言わなかったが、右手の薬指にはめていた指輪を、左手の薬指にはめた。  小さなチョコから始まった先輩との物語。  終わりを告げたのは、小さな指輪だった。  しかし、その終わりを告げた小さな指輪が、また、2人の物語を紡いでいった。

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