Chapter1 遭遇①
外は生憎の雨。 冷たい空気と雫が、身体中に染み渡る。 「…寒い。」 気温も低いため、本当に寒い。 温かい缶コーヒーを飲んでも、すぐに温まる訳ではない。 もう8月だっていうのに、冷夏かと思うくらいだ。 そんな中で私は、街をぶらついていた。 雨の中でチラシを配る人や、藁箒で掃除をしている人がちらほら。 そこらの一般人みたいに、私は歩くだけの事。 「…お姉ちゃん?」 誰かが、私を呼んだ。 声のした方に振り向くとーーー。 「奈那美お姉ちゃん…だよね…?若葉だよ。松浦若葉!」 「…若葉…?」 そこにいたのは、松浦若葉。 私の、実の妹だ。 生き別れて以来、ずっと連絡も取れなかった。 若葉は私を目にした瞬間、目から雨のように涙を流していた。 「もう!ずっと会いたかったんだよ…!」 若葉は思いきり私の胸へと飛び付いた。 よほど寂しかったのだろう。 「…そっか。まだ刀続けてるんだね。」 「うん。」 「私もそうだけどさ、お姉ちゃんみたいにはなれなくて…。」 「ん?どういう事?」 私は、若葉の発言に疑問を抱いた。 私みたいになれないとは…。 「お姉ちゃんは踊ったりしてるみたいに、二刀流で戦ってるでしょ?そんなの、私は真似できないなぁって思って。」 まあ確かに私は斬裂刀を使う時は、回ったりしてまとめて斬ってるけど…。 流石に技術を多く持っていないとできない。 ちなみに、若葉の刀は1本だけ。 端から見たら二刀流で踊り狂うなんて、普通の人間はできっこない。 「お姉ちゃんはすごいよ。私のできないような事ができるもん。」 「そうかな?」 ちょっぴり羨ましがる若葉が可愛らしい。 若葉もきっと私のようになりたいと、ずっと背中を追い続けていたんだろう。 もしもそうなら話はわかる。 若葉ほ昔からずっと、私の容姿を見てきた。 確か、「ずっとお姉ちゃんの傍にいたい!」なんて言ってたっけ。 あの頃に言われた言葉は忘れもしない。 でもしばらくして、生き別れてしまったのだから、寂しい思いをさせてしまった。 私って、悪い姉だなぁ…。 姉になるって、何だろう? 自分に妹ができて、姉ができる事って、どういう事だろう? 今思えば、それがはっきりとわかっていない。 姉って、何だろう? でも、若葉は…。 私の大切な、可愛い妹。 ずっと大切にしてきた。 でも、生き別れたあの頃、若葉は私を嫌っているんじゃないかと、不安に思っていた。 怖い。 痛い。 ずっとそんな日々を過ごしていたーーー。 「…姉……ん……。……ちゃん…。」 「お姉ちゃん!」 「…!」 若葉の大声で、私の思考は元に戻った。 「どうしたの?ボーッとして…。具合でも悪いの?」 「あ、ううん、大丈夫。ちょっと昔の事思い出してね…。」 「昔の事?」 「ほら、昔さ、私と若葉、一度生き別れちゃったでしょ?その間、実は私も寂しかったんだ。 あんなに可愛がっていた妹と離れ離れになって…。今思えば、私は悪いお姉ちゃんだなぁって、そう思っただけ。」 「……。」 ああ、黙り込んじゃった。 …と思ったら、若葉の口が開くーーー。 「そんな事ないよ。」 「ん?」 「私は、お姉ちゃんが大好きだよ。昔からずっと。こんなに寂しかったんだから、嫌うなんてありえないよ。 もし嫌ってたら、寂しがってない。お姉ちゃんもそうだったと思うよ。」 「若葉…。」 今まで可愛がってた妹にそう言われると、何だか安心する。 嫌っていなくて良かったと、心から思えた。 「そろそろ行こうか。濡れるの嫌だし。」 「え?うん。」 私はそう言って立ち上がる。 今から向かうのは、私の家。 まあ家って言うより、巣に近いかな。 何せ狭いし、長い間借りてるみたいな感じだし。 「ふえぇ~、ここがお姉ちゃんの…。」 「まあ、巣みたいなものだけどね。」 マンホールを開けた下水道に、テントが一つ建てられている。 あれが私の巣。 これなら家賃もいらないし、慣れれば寧ろ住み心地が良い。 え?体洗うのはどうしてるかって? ……。 それはご想像にお任せするかな。 「土足でいいよ。何も敷いてないし。」 「あ、うん。」 そう言うと、若葉を中に入らせた。 ただの貧乏生活に見えるかもしれないけど、全然問題ない。 「ずっとここに住んでるの?」 「うん。ここなら好き勝手できるかと思って。」 「て、適当だね…。」 まあ確かに適当っちゃ適当だけど。 「でもなんか、住み心地良さそう。よく長い間住めたね。お姉ちゃん。」 「慣れたら寧ろ良い場所だよ。」 「お、雨が止んでる。」 外に出ると、雨は止んでいた。 日差しが街中を照り付けている。 「あっついね~。」 「もう8月だからね。さっきは結構冷え込んでたのに。」 現在の日付は8月5日。 気温は30℃近くみたいだ。 「…よお。」 「ん?」 突然、誰かに声を掛けられた。 後ろを振り返ると、一人のタンクトップの青年がいた。 「お前、松浦奈那美だろ?」 「そうだけど。」 「丁度良かったぜ。あんた、俺と決闘しろ。」 「…は?」 私は彼の発言に、首を傾げた。 決闘…って事は…、え?ここで戦うって事? 「噂で聞いたぜ。あんた、えらい強いってな。だから腕試しには丁度良いと思ってよ。 だからよ、今すぐ俺と決闘しろ。」 あー、なるほど。もう私の名前は街中で知れ渡っているんだね。 「急だね…。私は別に構わないけど。」 「お姉ちゃん、いいの?」 「大丈夫。すぐ終わらせるから。」 そう言うと、私は鞘付きの鬼薙刀を構える。 「…言っとくけど、大怪我になる覚悟で挑んでね?」 「ああ。わかってるよ…。 さあ…、存分に楽しもうぜ!!」 私の鬼薙刀と彼の拳がぶつかり合うーーー。
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