シリーズ | 文字数: 2805 | コメント: 0

Chapter4 血戦③

《涼介視点》
~1ヶ月前~
 俺は姉貴達と出会うまでは、ずっと大屋軍の手下でいた。
 俺はその時、あの大屋…佐江子様の一面を見てしまった。
 それからが問題だった。


 『西園寺、何してるの?出撃の時間よ?』
 『……。』
 『西園寺、聞いてるの?』

 『…出撃はいいけどよ…。
 俺さ、佐江子様のある一面見たんだよな。』
 『…?』
 ここで俺は、佐江子様のある一面ってのを暴露する。

 『佐江子様はさ、手下にご褒美っつって、毎回手下とやってんだろ?』
 『…は?』
 『正直な事言ってもいいか?佐江子様は、あんな事して恥ずかしくないの?』
 『…さっきから何言ってんの?ご褒美はご褒美でしょ?
 任務で疲れた手下達を癒してあげるのが、主将である私の利権なの。
 たかが恥ずかしいなんて、そんな事…。』
 『主将なら何でもしていいのか?』
 『…!』
 『こんなろくでもねえ軍の中で手下とやってるなんてよ…。
 まるで変態女教師とおねだり男子生徒じゃねえか。』
 『西園寺…!』
 『俺はあんな付き合いには御免だからよ…。


 大屋軍、脱退するわ。』
 『はあ!?』
 『いくらご褒美っつっても、わざわざあんな事される義理はないんでね。』
 『…ふん、あんただって求めてたじゃない。
 いっつも私の近くにいる時、チラチラと私の胸を見てたじゃない。
 本当はあんたにもやらせてあげたかったのに…、チャンスを無駄にしたわね。残念だわぁ…。』
 佐江子様にそう言われた俺は、彼女を睨むように見た。

 『…俺がそんな目でてめえを見てたと思うか?』
 『…はあ?』
 『正直ひいてたよ。てめえのそういう所。
 いつもは力強く手下を慕ってたってのに、その裏の姿は紛れもねえ変態だって事によ。』
 『……。』
 ここで俺は、決意したんだ。

 『だからよ、俺はこの軍辞めるから。そこんとこよろ。』
 俺がそう言うと、佐江子様は怒りが混み上がったせいか、俺を睨んだ。


 『…あんた、そんなに死にたいの?主将にそんな大口叩いて…。
 覚悟はできてるんでしょうね!?』
 『……。』
 そうだよ、佐江子様は…。

 言う事を聞けない手下には殺意持ってんだ。
 『駆け出しの頃のあんたはとっても可愛かったのに…。
 今は言う事の聞かない野良犬ね!』
 そう。俺は野良犬だよ。
 あんな一面見たら、流石に俺もひくよ。
 そこで俺は、ある提案をしたんだ。


 『…じゃあこうしようか。
 今から俺は窓から外に出る。てめえは逃げてる俺を追いかける。』
 『…なに?』
 『…「人生最後の鬼ごっこ」って訳よ。
 命張って逃げてる俺を捕まえてみろってんだ。』

バリンッ!!
 『西園寺!』
 俺は窓に向かって走り、飛び出した。
 死ぬような高さではないが、外に出る事は変わりない。
 『んじゃ、一旦さよならだな。』
 『…!おい!!西園寺!!!』
 『追いかけるの諦めて逃げんじゃねえぞ!俺とてめえの勝負だ!!
 俺を殺すまで鬼ごっこは続くぜ!あばよ変態主将さんよ!!』
 『西園寺!!!!』


 『あのクソガキ…!


 絶対にぶっ殺してやる…!!』



 ここまでが、俺と佐江子様…大屋の、関係だったーーー。



《奈那美視点》
 …これが、涼介の真実だ。
 「そうだったんだ…。それで今、大屋から逃げてるって事か。」
 「ああ。お蔭様で、奴らは活動しまくってる。人殺しのな…。」
 「というか、涼介のそのやり方も結構反抗的な気がするけど…。」
 「そこはそっとしておけよ。あれしか方法なかったんだし…。」
 「それもそうか。」
 まあ、私もあんな軍には無理矢理にでも抜け出したくなる。
 「だからよ、姉貴。姉貴も協力してほしいんだ。」
 「……。」
 「俺が奴らに捕まらないよう、俺の護衛を頼みたい。
 もちろん、嫌なら断ってもいいが…。」
 今の涼介の話を聞いて、私は思う。

 涼介は、見た感じ荒くれ者だけど、根は良い奴だ。

 初めて私を「姉貴」と呼んだ時は、最初は混乱したけど、今はそうでもない。

 寧ろそう呼ばれて悪い感じはしないし、正直嬉しかった。

 それから私は、涼介を弟みたいな存在と思っていた。

 両親を亡くし、私の本当の家族は若葉だけだけど、涼介も家族のようなものだ。

 だから…。


 「ここまで聞いて断るなんて言うと思う?」
 「…え?」
 「わざわざ大屋軍から抜け出してここに来たんでしょ?涼介の事情がわかったら、尚更だよ。
 あんたが死なないように、私達もサポートするから。」
 私は、涼介が仲間に入ってから考えた。
 本当のではないけど、涼介は…。


 私の「家族の一人」だ。


 「……。
 フッ、馬鹿野郎だな。」
 「馬鹿野郎はどっち?」
 「さあてねぇ。比べもんになんねえや。」

 そう言われて、私と涼介はお互い笑った。

 私みたいな女は…、馬鹿でもいいんだよ。



 「なあ、姉貴。」
 「ん?」
 「若葉はどこ行った?」
 「…え?」
 そういえば、若葉の姿がどこにもない。
 「…!ひょっとして、まだ外に…?」
 嫌な感じしかしない。
 私は急ぎ足で巣から出た。



《若葉視点》
 「うぅ~…!ん~…。」
 ちょっと空気を吸いに、私は外に出ていた。
 空は曇り空。
 このまま太陽や月が出ないなら、私は嫌だな。
 お姉ちゃんと再会して、巣から出た時の快晴を早く見たい。
 大きな溜め息が出る。



ザッ…ザッ…


 「…ん?」
 突然気配を感じた。
 用心のために神楽刀を持ってきておいて良かった。
 私はすぐに刀を構える。



 …でも。



パシュッ



ザクッ!
 「うっ…!?」
 もう手遅れだった。
 何かを打たれた。
 「ぅぁっ…!」
 誰かなのかを確かめる前に、私は神楽刀を弾かれた。
 そして…、意識が遠のいていく…。



 「捕 ま え た ♪」


 聞き覚えのある声。



 しかし、とうとう瞼が落ちていく…。




 そして私は……。





 何者か……、確かめられないまま………。






 意識が…………、途切れてしまった……………。






コメント

コメントはまだありません。