恋愛 | 文字数: 1432 | コメント: 0

トゥルーエイプリル

【4月1日 20:00】 「僕と結婚して下さい」と、5年間付き合ってきた彼女に告白した。  彼女は少し驚いた表情をし、目を輝かせたが、今日が4月1日つまりエイプリルフールだということに気付くと「嘘じゃないよね?」と訝しんだ。 「ごめん。ちょっと言ってみたくて」僕は苦笑いをして、彼女にさっきの告白が嘘であることを告白した。 「最低。信じらんない。そんな大事な言葉を嘘の道具に使うなんて」彼女が怒るのも無理もない。「嘘吐く男とは一緒にいたくありません。さようなら」  彼女がその場から立ち去った。  その後、何度も電話をかけたが、彼女は一向に出なかった。 【4月2日 18:00】  やっと彼女が電話に出た。  透かさず昨日のことを謝るが、彼女の口調は強いままだった。  仕方がなく「20時に昨日の場所で待っているから、絶対に来て」と言うと「嘘吐く男の言うことは聞きません」と言われ、切られた。 【20:00】  少し前から昨日の別れた場所で待っているが、20時になっても彼女の姿が現れない。 【20:30】  厚着はして来たが、少し肌寒くなってきた。まだ彼女の姿は見えない。 【21:00】  彼女は来てくれると信じて、ひたすら待つ。 【21:10】  近くのベンチに座り、30分になったら帰ろうと決意したそのとき、彼女が現れた。 「まだ待ってたんだ」ぶっきらぼうに言って来る。 「来てくれてありがとう。そして、昨日は本当にごめん。でも理由があってのことだったんだ」 「理由って何よ」  僕は彼女の目をしっかりと見つめ「君にはもう嘘は吐かないし。哀しい思いも絶対にさせない。昨日の告白を嘘として片付けたけど、ここで改めて言わせてください。“僕と結婚して下さい”」  後ろのポケットから、この日のために用意して来たジュエリーケースを取り出し、指輪を彼女に見せた。 「これも嘘なんじゃないの」訝しがる。 「もう君に嘘は吐かない。だから、受け取って下さい」 「最後に訊いても良い?」 「うん」 「昨日のあの嘘で、私たちの5年間が水の泡になるとは思わなかった訳?」 「思わなかった、と言えば、嘘になる。けど、昨日の告白を本当にしてしまったら心に残らないと思った」  彼女がなぜか笑う。 「確かに心にはずっと残るね。良い意味でも悪い意味でも。だけど、心に残る悪いことは、後々笑い話に繋がると私は思う」 「そう言ってもらえると、助かるよ」 「だから、これからも心に残ることいっぱいしようね」そう言うと、彼女は指輪を受け取った。 【22:00】  夜道を二人で、手を繋いで歩いていると、ふと彼女がこんなことを言ってきた。 「4月1日ってエイプリルフールじゃん。でね、4月2日って、トゥルーエイプリル、といって本当のことしか言ってはいけない日なんだって」 「じゃあ、良い日に僕は告白したんだな」 「それでね、私も伝えたいことがあるの」 「何?」  冷たい風が、二人の頬を撫でる。 「私、妊娠したみたい」  少し沈黙が流れたあと「嘘?」と僕は訊いた。 「うん。嘘」彼女は少し笑うと「これでお互い様」と言い足した。  僕も笑ったが「もしできたら、3人は子ども欲しいな」と付け足した。 「そうだね」  僕は彼女の嵌めた指輪を感じながら、右手を握り直した。

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