日常 | 文字数: 675 | コメント: 0

L'amour est bleu

 高台にあるわたしの小さな家  丸窓から見える海が静かに拡がり、かすかに見える水平線は青い地球の輪郭を描いている。ベランダへと干した真白な洗濯物には潮風が吹き抜け、ぱたぱたと乾いた音をたてると、海面から見たことのない魚が飛び跳ね、冬の終わりの陽光を銀色に反射してくれる。  笛の音が聞こえる  たぶん、お隣のことはちゃん。『恋はみずいろ』のメロディー。海も地球に恋をするのかしら、なんて思いながらも息継ぎのところで、ほほ笑んでしまう。  ソプラノ笛のあどけないメロディーが透きとおる風船のように膨らみ大海原へと拡散している。  もう少しよ、なんてね  うんざりしながらも二回目の洗濯が終わり、ベランダへと主人の下着やら子供のカラフルなシャツを干しながら良い天気だから布団もついでに、なんて思う。見渡す限りの海面、海中に取り残されたコンクリートの煙突の先端が雲ひとつない青空と、今日という世界に光りを与えてくれる太陽を見上げている。  極地溶解による海面上昇は人知の及ばぬ力となり突き進んでいる。  昨日までの吉原本町は深い海の底。海色に染められた製紙工場の煙突が遠い記憶のように揺らいで見える。  わたしたち、海に帰るのね  部屋の掃除もおしまい。お昼寝でもしようかしら。そうつぶやきながらリビングのソファに寝ころぶと、よせてはかえす波音が近づいている。      せつないほど美しい瑠璃色、地球色の夢へとわたしは、そっと、手を伸ばしはじめる。    

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