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星が来ませり #1

   昔々、其のまた昔。とある村にとても小さな星が落ちました。 村で木こりをしながら静かに暮らしていた翁は、庭に落ちた小さな星を呆然と眺めていました。 ピカピカと光る石の美しさに圧倒されていたのです。 やがてゴゴゴという音と共に其の光は大きくなり、バキンという石が割れる音と共に石から長い髪の美しい少年が出てきました。 「いたた・・・ったくもー・・・」  翁は目をパチパチとさせて其の様子を眺めていると、少年は翁に気がつきました。 「どーも、お邪魔します。ややっ、ごめんね。お庭こんなことして。」  翁は少年の口ぶり、豪華絢爛な服装から唯ならぬものであることを察知すると思わず顔を下げました。 「いえいえ、滅相もございません。」 「ははっ、いやー本当に申し訳ない。父上も考えて流して欲しいものだ。」 「父上・・・?」 「ああ、すまない。こっちの話だ。僕はちょっと上で悪さをしてしまってね、『罰を与える』と地獄まで飛ばされたのさ。」 「じ、地獄・・?」 「ああ、ここは地獄だろ?」  翁は呆気に取られながらも、この方が言われるのなら確かにそうかもしれない、と何処か納得できました。 「た、確かにそうかもしれません。此処は畜生が兎角多いですからね。」 「ああ。全て畜生と言っても過言ではないな。」  少年の堂々とした其の口調に翁は多少怒りを覚えました。 (隣町のアイツなら確かに畜生かもしれないが、静かに山で暮らすこの私が同じ畜生であるだと。そんなはずがない。) 「はは、確かにそうかもしれません。隣町には人を騙し殺めることで生計を立てている畜生もいたりしますから。」 「・・・ほう。しかし、其れはいかんな。」  翁はじろじろと少年の姿を見回しながら尋ねます。 「ところで、あなたは一体何なのです。」  少年はポリポリと頬をかきながら気怠そうに答えます。 「星だよ。星。」 「ほ、星ですか。では何という名前の・・・」 「・・・僕にまだ名前はないよ。好きに呼んだらいいさ」 「・・・では、お星様と呼ばせていただきます。」 「うん。いいよ。ところで僕は、何か善行をしなければならないんだ。」 「ぜ、善行ですか。どうしていきなり。」 「いきなりも何も、僕はとある悪さをしたばっかりに地獄まで流されたんだ。父上が許すまで、此処で善行をつまなければならないんだ。取り敢えず庭を破壊したお詫びに何か願いを叶えてやろう。」 「えええ、そ、そんな、いいですよ。」 「いやいや、何でも願いを言うといい。そうだ隣町の暴君をやっつけてやろうか?」  翁はうーんと考えた挙句、生唾を飲み込み口火を切りました。 「そ、其れでは大きな屋敷と財宝をください。」  少年は口元に微笑を浮かべると、「うん、いいだろう。」といいました。 少年は両手を合わせると、目を瞑りました。「あなたも目を瞑って。」 翁は少年の指示に従うと、固く目を瞑りました。 「よしいいだろう、目を開けて。」 翁は胸いっぱいに期待を膨らませて目を開きました。其処には、翁が思い描いていた理想の大きな家と、あふれんばかりの財宝がありました。 「ほらこれでいいだろう。」 「ありがとうございますうう!お星様ぁ!!!」 翁は奇跡というものを其の肌にひしひしと感じると、思わず涙を零しました。 「では、僕は村へ行くことにする。」 「まま、待ってください。まだ感謝をしておりませぬ。」 慌てて翁は少年を引き止めようとしましたが、少年は首をよこにふると、ゆっくり姿を消しましたとさ。

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