恋愛 | 文字数: 400 | コメント: 0

きみとの祝言

 ぼくがあの娘と祝言を挙げることが決まったのは、あの娘が産声を上げた瞬間だった、と聞いている。
 十四の白無垢は、この世ならざるうつくしさを内に秘めつつも、幼さばかりが目についた。
 それでも見惚れるほどの愛らしさで、ぼくが彼女を娶ることが出来ることを、ただ幸福だとぼくは思っていた。
 祝言の朝の忙しさの中、ぼくはずっと見ていたはずのあの娘を、見失ってしまった。
 呼び止める声も聞かずに飛び出して、屋敷じゅうを探し回る。
 ほのかな光の奥座敷に、彼女は立っていた。
 白い花嫁装束を、女の証の血に染めて。
 ぼくは絶句することしか出来なかった。
 この世ならざるうつくしさ、その更に上を、魅せられてしまったと思った。
 娘は無表情に、ぼくを見る。
「これで、あなたの子が、産めます」
 その声音の生々しい暖かさは、きっと無垢に染みた赤の温度とまったく同じだった。


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