恋愛 | 文字数: 657 | コメント: 0

夏ノ幻

私の仕事は、妖怪を退治する事。 そのために今日も、人を惑わし、傷つける妖怪を倒していた。 私の辞書には『血』と『強さ』しかなかった。 強いものが勝ち、弱いものが負ける。 ただそれだけだから。 しかし、十七回目の夏。 荒くれた私の人生に一筋の光が現れた。 それが『君』だった。 君は、私に縁のなかった綺麗なものを山ほど教えてくれた。 蝶が舞うように踊る華やかな巫女舞。 雨上がりに紫色に染る黄昏時の空。 ゆらりゆらりと天女の如く優雅に泳ぎ回る朱色の金魚。 静まり返った夜の空に架かり、伝説を紡ぐ天の川。 ひと夏の思い出を彼に全て教えて貰った。 そして、あなたと最後の夜。 人混みの中を掻き分けて、いつもの神社に向かった。 さっきの騒がしさとは裏腹に全く人が居なく、一刻一刻がしっとりと流れていく。 屋台の赤提灯が辺りを照らし、人々は夜空を見上げる。 鳥居の前の石段に座って彼と見た最初で最後の打上花火。 「もう夏が終わるね」 そう呟いた彼の声は、どこか懐かしく穏やかで優しくて。 その泣きたくなるほど美しい君の微笑みは、争いしか知らなかった私のぼろぼろな乙女心の傷に深く、深く染みた。 けれど私は知っている。 それが私の使命だと知っているからこそ私はただ、君との儚い夏の終わりまでひたすらに泣く事しかできなかった。 君との思い出の夏はもうすぐ終わる。 そして私はもう時期、愛おしい君をこの手で葬らなければならない。

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