日常 | 文字数: 373 | コメント: 0

めぐり湯

「道子、めぐり湯に水を汲みに行こう」 老いたとはいえ達者な母が言う。 「隆文とおいで」と母はもう歩き出している。 めぐり湯は実家から川沿いに10分ほど歩いたところにあるらしい。 そこで湧き出た水は不老長寿の水だという。 兄を呼んで水を入れるタンクをもって、車で出る。 なぜか歩いて先に出た母には行き会えない。 めぐり湯でタンクに水を汲みこんで、母を待つ。 母は寄り道でもしているのであろうか。 めぐり湯の施設には芝生の生えた庭と、ウォータースライドがあり、 子どもたちがはしゃいでいたりする。 「お兄ちゃん、お母さんをもっと大事にしてよ」 とかなんとか母と同居する兄に言っている。 しばらく待っても母が来ないので、家に戻ると母はやっぱりいないのである。 母はもう死んでから七年になる。また夢を見ていた。

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