日常 | 文字数: 310 | コメント: 0

終末掌編

人類の終末に向けての、橋梁の解体工事が始まった。誰もがバカ騒ぎだと語る、旧時代の象徴は消えてゆく。戦争の代理でしかない芸能は影をひそめ、人々は異常気象で照りつける太陽の下、まるで初期人類かのような牧歌的な生をいきた。労働は歌だった。
時期を同じくして、富裕層がセカンドハウスにとつくらせた、地方都市の住宅群の整理も進んでいった。民族と大戦の呪いから解放された人々は、もう欲望を肯定する事がないように見えた。文学者たちの研究は、かつての芸能にひそむ殺意をあぶり出したが、とはいえ愚劣だと蔑まれた幼稚な物語は、子どもたちの愉しみではあったのだ。
携帯端末を手にした子どもたちは、日が沈む頃になると各々の家へと帰ってゆく。

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